第7話 余命

「私もね、もうすぐ死ぬの。」


彼女の言葉は嘘ではなかった。


今日が彼女の2回目の命日だからだ。

私は彼女の墓の前で足を止めた。


「百合さん、お久しぶりです。麗華です。」


『こらっ、あなたが百合でしょ?

 ちゃんと設定守ってよ〜〜もう。』


そんなお茶目でちょっぴり意地悪な百合さんの顔が見える。


あなたがいなければ私も今頃あなたと同じところにいただろう。

いや、違う。

私は天国には行けなかっただろう。




ーーーーーーーーーーーー


ことの経緯を詳しく話そうと思う。

今の私は戸籍上間違いなく弦堂百合だ。


しかし実際は“弦堂百合になりすました”

犀川麗華である。


弦堂百合はあの国内でもトップを競う財閥、弦堂グループの令嬢で間違いない。


しかし、彼女は妾の子だった。


その上出生前に障害がある可能性が高いと診断された。財閥家の人々は子を堕ろすことを頑なに拒んだ母親に対して、一生財閥家に関わらないことを条件にアメリカへと追放したのだった。


半年後、百合は健康体で産声をあげた。


彼女の母親は平穏な暮らしのために

決して財閥家にそのことを伝えまいと必死に隠していた。


財閥家の子孫は男ばかりだった。

妾の娘であろうと、女は縁談、つまりグループの繁栄のための駒としてとても重要な道具であった。


百合が15歳の時、とうとう財閥家に真実を知られた。百合は自分が財閥の娘であることは知っていたが、母親と自分が受けた仕打ちを思うと財閥家に身を寄せる気など微塵もなかった。


そして、彼女は条件を財閥家に突きつけた。


1、百合がアメリカの大学を出るまでは帰国を強要しないこと。

2、決して母に危害を加えないこと。

3、弦堂家による監視をアメリカから引き上げること。


彼女は自分が帰国し弦堂の駒になるその日まで、思う存分学び、遊び、母としたかったことを楽しんだ。


幸せも束の間、

彼女は悪性リンパ腫を患った。

希少な症例で治療がうまくいかないまま

どんどん悪化が進み、余命9ヶ月と宣告を受けた。


あまりにも物事が進むのが早く、

嘆く暇もなかった。


“私がこのまま死ねば、

弦堂家にはざまぁ、と思う。

 でも、母は...?

治療費で到底弦堂家の援助を得るわけにもいかず、母に苦労させて、私は亡くなり...”



どう足掻いても悲劇だった。




彼女は新しい百合を作ろうと思った。


まだ寿命の長い、噂通り博識で、

母親譲りの美貌を持った、


弦堂家が文句を言えない弦堂百合を。








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