第4話 サヨナラの火

無我夢中で自分の家まで走った。

家に帰ると弟たちは学校から帰って遊んでいた。

「あ、お姉ちゃん。おかえりー。」

「ただいま。真斗。」

「優斗も、ただいま。」

「ん。」


いつもの日常に私はほっとした。

弟たちは足かせなんかじゃない。

そう自分に言い聞かせた。



その時、電話が鳴った。

昔ながらの古い電話の着信音がひびきわたった。



「はい。犀川です。」


「もしもしレイちゃん?」


父の職場のおばさんだった。


「お父さんね...仕事中に事故に巻き込まれて今病院で手術してるの。かなり大きい事故だったからもたついてしまったて、、とりあえず〇〇病院!早く来てちょうだい!!」


ーーーーーーーーーー



父は全治6ヶ月の重傷だった。

部下のミスで大量の積荷が崩れたところを助けようとして怪我を負ったのだ。


心底愚かだと思った。

人を助ける余裕なんてないくせに。


私はもう大学なんてどうでも良かった。

重傷を負った父。幼いまだこれからの弟たち。貧しさ。

高校生が背負うには重すぎる現実。


私は教師から奪ったお金で父の約半年の入院費を先払いし、弟たちに荷物をまとめさせ母方の親戚の家に連れて行った。


「姉ちゃん。絶対無理だよ。カスミおばさんは、ていうか母ちゃんの家族は俺らのこと毛嫌いしてる。」


母は両親の反対を押し切って父と結婚した。その後も私たちが家族として認められたことはない。

私はインターホンを押した。

不機嫌そうな顔をした女性、母の姉であるカスミが出てきた。

私は父の状態と自分たちの暮らしについて話した。


「そう。それで、今さら私たちに養えというのね。千里はあの男のせいで貧しさに苦しんで早死にしたっていうのに!そりゃあんたたちに罪はないだろうけど、私はあの男と愚かな妹の子だと思うと憎たらしくてたまらないよ!」


「お願いします!この子たちにはもう行く宛てがないんです。私は置いてもらわなくて結構です。どうか、どうか弟たちだけ、、」


私は母方の親戚に跡取りがいないことを知っていた。


「待てよ、姉ちゃんも一緒じゃねえのかよ!」


「そうだよ!お姉ちゃん!お姉ちゃん!」


「優斗、真斗、お願い。姉ちゃんはここにはいられないの。いつか二人と暮らせるように頑張るから、迎えにくるから、元気で待ってて。」



あのボロ屋街に帰ると近所のホームレスたちはドラム缶に火を焚べて寒さを凌いでいた。


私は受験票をその火で燃やした。







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雪の日 アンナ @queen1anna

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