第2話 そびえる宮殿

私たちが住むこの街は貧困な人々が集まるボロ屋街である。立て付けの悪い窓から冷たい風が吹き込み、壁は薄く電気も繋がりが悪い。


そして皮肉なことに、大きな道路を挟んで向こう側には高層マンションが立ち並んでいる。まるでこのボロ屋街を嘲笑うかのように。夜になると節電のため薄暗い光を頼りに生きる私たちと、煌々と華やかな明かりに包まれる富裕層の落差がはっきりとわかり、私は惨めになる。

挙げ句の果て父はあちら側の住人が捨てた高級家電やら何やらまだ使えそうな廃品を持って帰って来るのだ。


私は今大学受験を控えた高校三年生。

下の弟は中学二年生の優斗と一年生の真斗、年子でとても元気ないい子達だ。

母は2年前にガンでなくなってしまったので、今では私が母親代わりである。


父は早くに工場に出勤して、弟たちは学校へ向かった。私も身支度をせねば。

学校の友達は私が貧しい暮らしをしていることを知らない。髪を綺麗にとかし、靴の汚れをとり私は学校へ向かうバスに乗った。




「麗華!」

「麗華おはよーー」

「おはよう、文香、のの。」


校門をすぎると友達たちが声をかけてきた。

二人とも高校生とは思えないハイブランド

の物を身につけ、髪も肌もまつ毛もよく気合が入っている。


「いやー、麗華って今日も今日とても白鳥さんみたいやなぁ。」


「せっかく美人なんだから、口紅ぐらい塗ればいいのにーーーー。」


「お洒落に興味がないってわけじゃないけど、家が厳しいから高校生のうちはそういうのできないって言ってるでしょ?」


私はへらっと笑顔で嘘をつく。


「まぁ、その顔ならわからんこともないかなぁ。白鳥が着飾りますか?って感じ?笑笑」


「え、ちょっと文香やめてよーー!

ハイブラでガチガチに固めてるうちらが惨めになるじゃーーーん」


そう笑い合ってこのご令嬢たちを両脇に私は教室へと足を運ぶ。この富裕層の集まる高校に入れたのは、国の貧困世帯支援事業に伴い、成績優秀な生徒が学費全額免除で受け入れられるようになったからだ。


この教室での私の設定はこう。


父は教授で、母は官僚を父に持つ良家の出身である。裕福な両親は教育に厳しく、遊ぶことや派手に着飾ることは禁止されている。

我ながらなんとも笑える設定である。


なぜこんな設定が必要なのか、

この学校では特待生、つまり貧しい生徒は裕福な生徒に虐げられるからだ。


私は毎日あのボロ屋街で惨めに生きているのに、こんなところでも財力の壁に負けるのかと思うと耐えられなかった。






ー放課後の美術室ー



若い三十歳手前の男性教師が私を待っていた。


「先生、今日は部活見に行かなくてもいいんですか?」


「僕みたいなバレー素人が行ったって何にもならないよ。」


「ふふっ、ののが悲しみますよ?

あの子、先生に気があるから。」


「はぁ、ああいう子供っぽい子は苦手なんだよなぁ。しつこいし、うるさいしで。」


「私も先生から見たら、、子供でしょ?」


そう言って甘く見つめると先生は私の腰に手を回し、私を長机に座らせた。

そして靴下を脱がせ、脚のつま先から太ももの付け根までしつこく舐めた。


「先生、私が特待生制度でこの学校にいること絶対漏らさないでください、」


「わかってるって。この三年間、一度もバラさなかっただろ?」


そう言って先生は私のシャツを脱がし胸を執拗に舐めまわした。


「先生っ、、んっ、。」


「君が僕を利用しているのはよくわかってる。」


「ちがっ、、そんなつもりじゃ、」


彼は私の唇に激しくキスをした。


「いいんだ。理事長の息子であって良かった ことなんてこれぐらいだからね。

 君を好きなようにできる。」



先生が去り、美術室に一人残った私は泣いた。悔しくって、たまらなかった。







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