雪の日

杏菜

貧困と虚栄

第1話 寒さの厳しい朝


風が冷たく夜空のよく澄んだあの場所で


わたしたちは


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寒さの厳しい朝。街はまだ暗く、人は静まり返っている。薄暗い街頭が照らすのは、粗末なブロック塀で囲まれた住宅たち。そして貧しい格好をした男が街角に捨てられた廃品を漁っている姿。

「まだ使えるじゃねぇか。物のありがたみも知らないで、この野郎。」

男はそう呟いてホコリの被った電子レンジを掘り起こすように廃品の群から取り出し脇に抱えた。

「おまえさんも今日からボロ屋暮らしさ。」男は高く、高く上を見上げながら電子レンジにそう囁き、静かな路地を歩いていった。


男には家族があった。娘と息子が2人。

妻は2年前病死し、今は工場働きの男の少ない賃金がこの一家の収入である。

男は悴んだ指先でドアノブをゆっくりと回し家族を起こさぬように家に入った。


「もうやめてって言ったよね?お父さん。」


突然の娘の声に男は小さく「ひぃっ」と声を漏らす。


麗華れいか、いや、あのこれはだな。

 ほら電子レンジなら、お前たちもほしい って言ってたろ?だから、なぁ?」


あまりのしどろもどろした自分の様子に男自身も情けなく思った。

麗華は寝巻き姿のまま流し台に向かい、やかんに火をつけた。


「それにしてもお前、どうしてこんな朝早くに起きてるんだ?」

優斗ゆうとたち、今日からまた学校始まるからお弁当。」

「ああ。そうだったな...。お前だって大学受験で忙しいってのに、すまないな。」

「...いいの。」


麗華は暖かいお茶を湯呑みに注ぎ、凍えた父に渡しながら不満をこぼした。


「私たちがこんな暮らしで、あのマンションの住人の暮らしに憧れるのはわかる。

わかるけど、、、お父さんにはこんな物乞いみたいなことしてほしくない!」


麗華は泣くもんかと言わんばかりに必死に涙を堪えている。


「麗華...。」


「この冷蔵庫も、ストーブも、まーくんに買ってあげられなかったグローブも、全部、全部廃品の中から拾ってきたものじゃない。」


「俺が悪いんだ。こんな暮らしをさせているのは俺のせいだ。お前は母さんに似て美人で賢い、こんな俺の娘じゃなくてその才能をもっと生かせる家に生まれていれば、」


「やめてお父さん。

 そんなこと望んでるわけじゃないの。

 ただ....。」


麗華は何も言わずただ黙々と弁当作りに取り掛かった。

男は電子レンジをテーブルに置いて、仕事着に着替えに奥の部屋へ向かった。


寒さの厳しい朝だった。





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