第78話
だけど待てども誰も来る気配もなく、もしかしたら船はまだ動いているんじゃないかと考え始めた頃、扉がいつもの嫌な音をたててゆっくりと開いた。
そこにいたのは、久々に見るヒヤマ。
今日はスーツのジャケットは着ていなくて、胸元の肌けたYシャツ姿。
袖を肘上まで折っていて、何か作業をして来たばかりなのか額には汗が滲んでいる。
「まったく…。」
ヒヤマは苛立っている様子でそう呟きながら、ガチャガチャと乱暴に格子戸の鍵を開けた。
「一体全体、どうやってリーをたぶらかしたんだ。たいして色気もねえのによ。」
ブツブツ言いながらヒヤマは格子戸を開け放つと、わたしを見ながらそんなことを言う。
──それにしても、いつから彼はこんなに口が悪くなったのだろう。
あれほど丁寧な言葉遣いをしていたのに。
素のヒヤマは、恐らくこっちの気がする。
わたしは身代金を貰うための大事な切り札だったけど、今は彼らの所有物に過ぎないから──彼の中でも、わたしの扱い方に関する心境の変化があったんだろう。
「リーって誰?」
わたしも、負けじとタメ口で返す。
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