第64話

「う…うっ…。」



まるで人間じゃないかのような美しさを持っている人だけど、わたしを包み込む体はすごく温かかった。


久々に感じる、人の温もり──。


その温もりを感じた途端、どういうわけか涙がまたとめどなく流れ始めた。






男の背中にしがみつき、本能の赴くままに声を上げて泣きじゃくる。


男は黙って、そんなわたしの背中を撫でてくれた。







───どうして。


どうして、この人はこんなにも優しいの?


この人は本当に誘拐犯?


きっと何かの間違いで、こんなところにいるんだ。






こんなに優しくて綺麗な人が、悪人なわけがない───。

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