第63話

「あ…。」


震えながらも、お礼を言わなきゃと思った。


この人は、またわたしを助けてくれたのだから。


だけど歯はカチカチとうるさいし、唇も震えて言葉にはならなかった。


込み上げてくる恐怖、寂しさ、やるせなさ───。


色々な感情が混ざり合って、涙が後から後から流れて止まらなかった。






綺麗な男は、立ったままわたしを見下ろしていただけだったけど──。


ゆっくりとわたしに近付き、膝ま付いてわたしの顔にそっと触れてきた。






涙で滲んで、彼の美しい顔ははっきりとは見えなかったけど。






その灰色の瞳は、見たこともないくらいに悲しそう。





わたしじゃなくて、この人の方が泣いちゃうんじゃないかっていうくらい悲しそうで──。






男はわたしの殴られた頬を優しく撫でると、上半身裸のままのわたしを、そっと包むように抱き締めた。

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