第62話

美しい男は立ったまま、何かを見下ろしている。


灰色の瞳は凍てつくように冷たく、見ているだけでゾクリと寒気を感じる程鋭く相手を睨んでいる。


その視線の先にいるのは、あの髭面の男で──。


彼はしばらくぐっと美しい男を睨んでいたが、やがて立ち上がると小さく頭を下げ、部屋から出て行った。







こんな状況だけど、唖然とせずにはいられなかった。


綺麗な男は髭面の男よりも明らかに年下だけど、上下関係は今の様子を見ると、綺麗な男の方が上みたいだ。


一体どういう組織図なのかは知らないが、その光景は異様で滑稽にすら思えた。







しばらく呆然としていたが、カタカタという小さな音で自分の今の状態に気付く。


ジンジンと痛む頬、さらけ出されたままの裸の胸に、肌に残る気持ち悪い感触───。


カタカタと鳴っていたのはわたしの歯で、今更のようにわたしの体は小刻みに震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る