第60話

もう駄目だ、と思った。


男の人には見せたことのない、この体。


ああ、そうか。


わたしなんて、もう終わってたんだ。





────ママに、捨てられた瞬間から。





わたしの体から、力が抜けていく。


髭の男はそれに気付いた様子で、わたしの両手を固定していた片手を離し、両手で露になったわたしの胸を弄び始めた。


すぐ耳元でハアハア荒い息を吐きながら、嫌らしい手付きで胸を触られる。


ゴツゴツとした、嫌な感触。






気持ち悪い───。


気持ち悪いよぉ…。






やがて男がわたしの耳元から顔を離し湿った感触を胸に感じた時、わたしの心は砕け散った。


何度も何度も、手付きと同時に繰り返されるその感触。







どこかの海の真ん中、暗い牢屋の中で──。


気持ち悪い男に殴られ、胸を触られ辱しめられているわたし──。






最早もう、何が現実なのかも分からない。








わたしの頬を、一筋涙の雫が流れた。

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