第50話

もう戸口を見て誰が来たかだなんていちいち確認する気力のないわたしだったけど、その時はふと仰向けのまま戸口に目をやった。


何だか、いつもと空気が違ったんだ。


だから直感で、あの綺麗な男だろう、と思った。






案の定チラリとわたしの視界に映ったのは彼の黒いエンジニアブーツで、そのブーツは格子戸を潜ると、中までツカツカと入って来た。


横たわりながら、彼の姿をぼんやりと目で追う。


相変わらず作り物のように美しい彼の顔は、じっと床に倒れるわたしを見下ろした後、ぐるりと牢屋の中を見渡した。





何をしているのか気になり彼を見ていると、彼は丁度格子戸の入り口付近に置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを手に取った。


そして未開封のその蓋を鈍い音をたてて開けると、中身を飲み始めた。







何で、こんなところでお水を飲むんだろう───?

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