第22話

ヒヤマの妙に心地好い波長の声は、この狭い室内で嫌に響いた。


「まあ、身代金が用意されるのは時間の問題でしょう。あなたは大事なお嬢さんですからね。狭くて汚いところですが、それまでの辛抱ですから。」







ヒヤマはそう言うと、立ち上がった。


「後で食事を運ばせますから、なるべく食べてください。それからトイレの時はあのカメラに向かって教えてください。案内しますから。」


ヒヤマはそう言うと、天井の隅を指差した。


さっきは気付かなかったけど、そこには確かに小型のカメラがあった。


──だからさっきわたしが動いた時、示し合わせたかのように人が来たのか。


常に見張られているのかと思うと、ぞっとする。






ヒヤマは終始無言のわたしを一瞥すると、くるりと体の向きを変えて檻から出て行った。


扉を閉め、ガチャガチャと鍵を掛けている。







「あの…。」






そこでわたしは、初めて声を出した。


ヒヤマは鍵を掛けていた手元を止めて、わたしを見た。







こんなことじゃなくて、聞きたいこと、言いたいことはいっぱいあった。


だけど何故かその時わたしが掠れた声でしたのは、こんな質問だった。









「あの…中国の方が、いらっしゃるんですか?」

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