第18話

声の指示通りに、ゆっくりと息を吸い、吐き出す。


わたしの呼吸にしたがって、口元に当てられたビニール袋が風船みたいに膨らんだり萎んだりした。


その向こうに、その若い男の美しい顔がある。






呼吸は次第に楽になり、こんな状況だけど気分が落ち着いて来る。


誘拐犯=悪い人相の男、と想像していたからかもしれない。


犯人は複数いるようだけど、一番始めに目にした人間が、見たこともないくらいの美男だったから──。


驚き動揺すると共に、少しだけ心が安らいだ。






呼吸が落ち着いてくると、その美しい男はわたしの口元からビニール袋を離した。


背後で、今度は中国語で誰かが言葉を発した。


それにまた別の声が返事をし、さっぱり理解出来ない中国語での会話が繰り広げられる。







その間も、やっぱりその美しい男の瞳はわたしを見つめていて──わたしもその瞳から目が離せない。







作り物の様に、完璧なまでに整った顔。


その眼差しは人間のものというより、犬や猫がするような、雑念のない真っ直ぐな瞳に近い。


それが、不気味に感じる。


生身の人間にはあるはずがないような美しさを──その男は持ち合わせているように思えた。

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