第17話

きめ細かな白い肌に、柔らかそうな薄茶色の髪。


灰色がかった瞳はそれほど大きくはないが、綺麗な二重で──。


すっと筋の通った鼻に、薄い唇。






まるで絵画の中から飛び出してきたかのような綺麗な顔が、余りにも場違いな汚れたこの空間に現れたものだから、はっとして一瞬だけ息苦しさを忘れた。






その人はわたしを抱き抱え、何かビニールのようなものを口元に当てた。






「落ち着いて、ゆっくりと、息を吸って下さい。」






若い男の声が、今度は紛れもない日本語で聞こえたけど、わたしを抱き抱えているその人の唇は閉じたままだった。


思うに、声を出したのはまた別の人。







「ゆっくり深く。吸って吐いて下さい。」







その声は、わたしの背後から聞こえる。


美しい人の灰色の瞳は、じっとわたしを見ていて──わたしもその目をひたすら見つめながら、その言葉の通りにゆっくりと呼吸を繰り返した。








「そうそう、上手です。」

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