第37話
「リキ、ごめんなさい。妊娠したこと黙っていて」
我に返った様に、わたしはリキに謝った。
リキはしばらくの間、黙ってただわたしを見つめていた。
空から落ちて来た白い粉雪が、次々と彼の黒髪の上に降り注いでいる。
「歌う時はいつも心の何処かに浮かんでる、アゲハの笑った顔が」
やがてリキは、ポツリとそう言った。
「だけど今日は、気付いたらずっと子供のことも考えてた。顔なんてまだ分からないけど」
それからリキは少しだけ上を向いて、雪達が音もなく舞い降りて来る真っ黒な夜空を仰いだ。
「アゲハと出会った瞬間に、俺の世界は変わった。だからそんな瞬間を、この子にも見つけて欲しい」
「リキ……」
堪えていた涙が、頬を滑り落ちるのを感じた。
「泣くなよ」
優しい目をしてリキはそう言うと、手を伸ばしわたしのお腹にそっと触れた。
それから、「ごめんな」と静かに呟いた。
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