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第34話

「アゲハ」






聞き慣れた声が、聞こえた。


白く霞んでいた視界がクリアになり、胸の中がふわりと暖かくなる。


いつだってどんな時だって、わたしを安心させてくれるその声───。


世界で唯一のその声が、聞こえる筈がないのにすぐ頭上から降って来たんだ。









「リキ……」


見上げれば、悲しげな顔をしたリキが立ったままわたしを見下ろしていた。


朝出掛けた時と同じカーキ色のミリタリージャケットを来ていて、フードを被っている。


走って来たのか、彼の口元で繰り返し白い息が現れたり消えたりしていた。


「どうして……」


「さっき、車の中からアゲハが見えた気がしたから降りて来た」








そう言ってリキは手を伸ばすと、わたしの腕をしっかりと握って立ち上がらせようとした。


わたしの背中を擦っていた男の子が、慌てたように離れて行く。


「しんどいの?」


「うん、ちょっと。でも今治った」


「そっか」

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