6
第34話
「アゲハ」
聞き慣れた声が、聞こえた。
白く霞んでいた視界がクリアになり、胸の中がふわりと暖かくなる。
いつだってどんな時だって、わたしを安心させてくれるその声───。
世界で唯一のその声が、聞こえる筈がないのにすぐ頭上から降って来たんだ。
「リキ……」
見上げれば、悲しげな顔をしたリキが立ったままわたしを見下ろしていた。
朝出掛けた時と同じカーキ色のミリタリージャケットを来ていて、フードを被っている。
走って来たのか、彼の口元で繰り返し白い息が現れたり消えたりしていた。
「どうして……」
「さっき、車の中からアゲハが見えた気がしたから降りて来た」
そう言ってリキは手を伸ばすと、わたしの腕をしっかりと握って立ち上がらせようとした。
わたしの背中を擦っていた男の子が、慌てたように離れて行く。
「しんどいの?」
「うん、ちょっと。でも今治った」
「そっか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます