第32話

どこからか、クリスマスソングが聞こえて来た。


オルゴール調の、お馴染みのトナカイの曲。


ふと立ち止まり横にあるショーウインドウを見れば、そこは北欧のインテリアグッズを集めたようなお店で、木の温もりに溢れた子供の玩具や木馬が飾られていた。


店頭に置かれたかわいらしいトナカイの形をしたオルゴールが、くるくる回りながら綺麗な音を奏でている。


その様子をじっと眺めながら、また泣きそうになる。


そして今更の様に気分が悪くなって、わたしはその場に立ち止まったまま動けないでいた。






「あれ?さっきのおねーさん」


すると突然後ろから、何処かで聞いたような声が聞こえた。


振り返ると、さっきコンサート会場の前で話し掛けて来た男の子三人がいた。


「こんなとこで何してんの?さっきこいつがさあ、おねーさんのことスゲエ好みって言ってて」


栗色の髪をした男の子が、テンション高い声で嬉しそうに黒髪の男の子の肩を抱く。


さっきはTシャツ姿だったその男の子はもうジャケットを羽織っていて、顔を赤らめながら「お前だって言ってたじゃん」と小さな声で呟いている。







「俺らこれから飲みに行くんだけど、おねーさんも行かない?」


「いや、お酒はちょっと……」


妊娠中なので、絶対に無理だ。


「あれ、飲めないの?ならさ、ジュース飲んでていいからさあ、マカオンについて語りながら熱い夜を過ごさない?」


「何だよお前、その口説き文句」


ギャハハ、と笑う声が聞こえた。






……その時にはわたしはもう、最早誰がどの台詞を言って、今笑ったのが誰かも分からなくなっていた。


───気持ち悪くて、立っているのもしんどい。

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