第31話

皆残念そうな声を漏らしながら、パラパラとその場から離れ始めた。


人々の熱気で熱くなっていた辺りの空気が、突然思い出したかのように冷たさに包まれる。


人々が去った後の路上には、はらはらと粉雪が静かに舞い降りていた。


わたしはその場に立ち尽くし、そっとお腹に触れながら、リキを乗せた車が去って行った大通りの方に茫然と目を向けたままでいた。







コートも頭も、きっと雪で白くなっている。


寒さで思わず身震いしてから、わたしはゆっくりと歩き始めた。


───胸が、苦しい。


まさかリキがわたしに気付くだなんて思いもしなかったけど、車の中にいたシルエットだけのリキはまるで手の届かない遠い存在みたいで……。


たまらなく、泣きたくなっていた。







コンサート会場前の大通りの街路樹は、オレンジ色の細かなイルミネーションが眩しいくらいに輝いていてすごく綺麗だった。


赤や緑のクリスマス仕様の紙袋を手に下げて道行く人々の顔は、皆穏やかで幸せそう。

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