第20話

リキが玄関のドアを開けた一瞬だけ、冷たい空気がすうっと部屋の中に流れ込んで来た。


だけどドアはすぐにパタリと閉じられて、元の部屋の空気に包まれる。






わたしは玄関の前に立ち尽くしたまま、泣きそうになっていた。


まだ家を出る時間じゃないのに、リキはわたしを残して行ってしまった。


わたしと一緒にいるのが、嫌だったんだろう。





リキにそんな冷たい態度を取られたのは初めてのことで辛くて、こみ上げてきた涙のせいで鼻がツンとして来た。


───分かってる。


リキが怒っているのはわたしが妊娠したことが原因なんじゃ無くて、そのことをまずリキじゃなくてコウに相談したことが原因なんだ。


コウとリキとわたしの間には…色々あったから。


わたしが相談した相手がコウじゃなくて別の誰かだったら、リキはここまで怒らなかったかも知れない。


コウがリキに対してコンプレックスを抱いていたのと同じように、リキもコウに対して特別な感情を持っているのは感づいていた。


それは全部、わたしのせいなんだけど…。






だけど、それは分かっていても────。


無性に、悲しかった。


リキがわたしが妊娠したことについて、そして赤ちゃんについて、何一つ触れようとしなかったことが。







悲しくて悲しくて、わたしは気付けば立ち尽くしたまま涙を流して泣いていた。

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