第19話

───コウが出て行った後。


静まり返った部屋には、重い空気が流れていた。


わたしとリキは、向かい合って立ち尽くしたままで。


どちらも目を合わそうとせずに、ただ押し黙っているだけ。


エアコンが効いて来て、今更のように温もりに包まれ始めた空気が妙に空しかった。






「怖かったの」


何か言わなきゃ、と思って言葉を探す。


「子供が出来たって知ったら、リキがどんな顔するのか分かんなくて…。だってリキは、子供を望んでいないから…」


「だからって、それをまず最初に相談するのがどうして兄貴なんだよ」


「だってコウは、リキのことよく分かっているし…」


「意味が分かんねぇ」






リキはそう言って深いため息をつくと、リビングのドアを開けて出て行った。


寝室から、彼がガサガサと何かをしている音が聞こえる。


しばらくリビングに残ってその物音に耳を澄ましていたけど、どうしようもなく不安になって廊下に飛び出した。


すると、ちょうど寝室から出て来たリキと鉢合わせた。






リキはカーキ色のミリタリージャケットに黒い細身のズボンを履いていて、もうすっかり着替えを終えていた。


チラリとだけわたしに視線を向けて、


「もう行くから」


それだけ言うと、リキは玄関に体を向けてわたしを振り返ろうともせずに寒空の中に出て行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る