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第17話
────びっくりした。
リキが、いつもより大分早くバスルームから出て来たから。
体もまだ完全に拭ききれていない状態で、床に滴がポタポタと落ちている。
慌てた様に、ジーパンだけ履いていて───。
そんなリキの姿を見た途端、申し訳なくなった。
リキは何も言わなかったけど、わたしとコウを二人きりさせたことにきっと不安を感じていたんだ。
あれからもう何年も経ってはいるけど、わたしとコウの間には何も無かった訳じゃ無いから……。
そしてリキをそんな風に不安にさせといて、追い討ちを掛けるように更に戸惑わせてしまった。
静まり返った朝のこのマンションの一室では、わたしとコウの話し声がリビングの向こうまで聞こえていたんだ───。
「ごめん……驚かせて」
慌てて、リキに近付く。
「こんな形で知らせるつもりじゃ無かったんだけど……」
手を伸ばしリキの腕に触れれば、その瞬間リキはわたしのその手を払い退けた。
そんなことをされたのは初めてで、ショックのあまりわたしの体は固まった様に動かなくなった。
「そんな大事なこと、どうして先に兄貴に言うんだよ」
リキはわたしから目を反らし、吐き捨てる様に荒々しくそう言った。
「リキ……ごめん……」
「リキ」
わたしとリキの間に流れる殺伐とした空気の中に、コウの落ち着いた声が降って来た。
「アゲハは悩んでたんだ。お前が、子供はいらない、って言ったから。分かってやれよ」
するとリキは露骨に眉を寄せて、わたしを見た。
「そんなことまで、兄貴に言ってるの?」
ここまで怪訝なリキの顔を見るのは初めてのことで、怖くてわたしは何も言い出せなくなった。
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