第16話
コウのその言葉を聞いて、わたしは考え込むようにしてそのまま立ち尽くしていた。
その間にコウはコーヒーの準備を整えて、買ってきたショートケーキまでお皿に取り分けようとしてくれている。
どのケーキも、サンタクロースのカップに入っていたりトナカイの飾りが付いていたりして、すごくかわいい。
「リキは昔から、苺のショートしか食べないんだよな。冒険心の無いやつ」
コウはクスクス笑いながらそう言うと、ふとわたしに視線を移した。
そして黙ってそんな彼を見ているわたしに、「ごめんな」と言った。
「大事な時期なのに、不安にさせるようなこと言ってごめん。だけどさっきも言ったけど、リキはアゲハのことなら何でも受け入れると思うよ」
コウはそう言いながらわたしに近付くと、ポンと優しく頭に手を乗せてくれた。
「好きな女のお腹に自分の子供がいるのに、喜ばないやつなんていない。あいつはまだ、知らないんだよ。だからまずは、ちゃんと言ってやらないと」
目の前にある、コウの優しい茶色の瞳を見上げる。
目が合うと、コウはそっと微笑んでくれた。
その時────。
リビングのドアが、躊躇いがちにゆっくりと開かれた。
そこにいたのは、まだ髪が濡れたままのリキで。
リキは戸惑いの表情を顔に浮かべ、そこに立ち尽くしたままじっとわたしとコウに視線を向けた。
そして。
「アゲハ……妊娠してるの?」
と、小さく声を出した。
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