第10話

リビングのドアを開ければ、いつの間にかリキは起きていてソファーに座りじっとこちらを見ていた。


エアコンのスイッチを入れたらしく、上空から勢い良く暖かい風が流れていた。


「リキ、久しぶり」


コウは微笑を浮かべたまま、ダイニングテーブルにケーキの入った紙袋を置いた。


「せっかくのクリスマスなのに、またライブだろ?アゲハがかわいそうだから、ケーキ買って来た。二人で食べなよ、あ、朝からキツイかな」







「今日休み?」


リキはソファーに座ったまま、コウに向かって淡々と言葉を発する。


「これから仕事だから、俺はすぐに帰るよ。お前、裸で寒くないの?」


「……今から、シャワーするから」






リキは何処となく、不機嫌な様子だった。


多分、さっきわたしが行為を拒んだのが理由だろう。







「すぐ帰るの?コウも一緒に食べようよ」


立ち尽くしたままのコウに、そう声を掛けてみる。


「少しなら、大丈夫だよ」


「なら、用意するね」


わたしはキッチンに移動し、棚からお皿やコーヒーカップを取り出した。


コウはマフラーをシュルリとほどきながら、ダイニングの椅子に腰を下ろした。


リキはそんなコウとわたしの様子を少しだけじっと見ていたけど、バスルームに行くのか徐に立ち上がった。







リキがリビングを横切る際、コウが「お前、タトゥー入れたの?」と声を掛けた。


リキは一瞬だけコウを見て、微かに頷く。


「ふうん」


コウは座ったまま、リキの左上腕部をじっと見つめている。


「無限大、か。それって、インフィニティーって言うんだよな」


コウは穏やかにそう言った。


「相変わらず、分かり易いやつだな」

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