第92話
やっと声が喧騒に掻き消されない位置に来てから、相変わらず一言も喋らない中田くんにわたしは声を掛けた。
「木村くんは?」
「さあ、いなくなってた。」
「木村くんと仲いいんだね。」
中田くんは少し間を置いてから、「同じ中学だから。」と淡々と答えた。
携帯で時間を見ると、まだ終電までは随分あった。
このまま帰るのは、余りに味気なさ過ぎる気がした。
中田くんとは全然喋れてないし───といっても、会話が弾みそうにもないけど。
黙々と駅までの道のりを歩いていると、闇の中煌々と光る自動販売機を見付けた。
近くに青い錆び付いたベンチがあり、運良く誰も座っていなかった。
「今日来てくれたお礼に、ジュース奢るよ。」
ドキドキしながらもそう言ってみると、中田くんはわたしをチラリと見て小さく「うん。」と言った。
中田くんが選んだのはオレンジジュースで、わたしはストレートティー。
互いにベンチの端に腰掛け、ごくごくとそれを飲んだ。
さっき借りた小銭を返そうとしたけど、「奢って貰ったからいい。」と言って断られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます