第93話

一息ついて空を見上げると、雲ひとつ無い夜空に星が瞬いていた。


都会の明かりに光を掻き消されながらも、星はキラキラとしたその輝きを精一杯地上に届けている。


いつか見た空を思い出した。


1年前、ギターを奏でながらふと仰いだ星空。


────その時の夜空に似ていた。







「良かった?ライブ。」


突然、中田くんが声を出した。


「あ、うん、えっと…。」


中田くんから話し掛けて来たことに、多少驚く。


中田くんはわたしの方は見ずに、どこか遠くを見つめていた。






「うん、かっこ良かった。」


そう、答えた。


「でもなんか、ついて行けなかったっていうか、結局あまり曲を覚えてない。」


正直に答えると、中田くんは何も答え無かった。


「───あ、でもあの曲。アンコールの前に歌ってた、星空が何とか──って曲。あれは、良く覚えてる。」







星空を見上げながら、あのメロディーを思い起こす。


何だか自分自信とリンクして、思い出しただけで胸が締め付けられた。


ふと視線を感じて中田くんを見上げると、いつの間にか中田くんはこっちを見ていた。


黒い瞳が、怖いくらいにじっとわたしを見据え───。


そして、やんわりと。








彼は突然、笑みを浮かべた。

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