第91話

その歌は、今までとは打って代わって単調なメロディーでシンプルな歌詞だった。


それが逆に、ストンと落ちるかのようにわたしの心に真っ直ぐ響いた。


明るいテンポの曲なのに、何故かせつなくて。


───胸が、つかえた様にぎゅっと痛くて。


わたしは放心状態で、その歌を聞いていた。







何故だか分からない。


分からないけど────。


その短い曲に、心を揺さぶられたんだ。







歌い終わり、頭を下げてステージを去るメンバー達。


アラレのように降り注ぐアンコールの声を聞きながら、いつの間にか隣に中田くんがいたことに気付いた。


中田くんは、誰もいなくなったステージをじっと見つめていて、わたしの目線に気付くとこっちを見た。


そして、なぜか少しだけ。


────ほんの少しだけ、わたしに微笑み掛けた。






アンコールの曲は彼ら最大のヒット曲2曲で、会場の興奮は絶頂のままライブは終了した。


わたしと中田くんは、人混みに流されるようにライブハウスの外に出た。


ライブハウス前は、メンバーの出待ちで一向に人が減る気配もなさそうだった。

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