第87話
コウ先輩は肩からギターを下げ、マイクに口を付けて歌い始めた。
長い前髪から覗く瞳はいつもみたいに柔らかく笑ってなくて、どこか鋭くまるで別人みたい。
歌いながら、時々マイクから離れてギターを奏でる。
その度に長い前髪が激しく揺れ、細い腕が弦を震わす。
────かっこいい。
アップテンポでノリのいいその曲に、皆がは拳を上に上にと突き上げている。
前の方の客席に目をやると、まるで波みたいに集団になってお客さん達が移動していた。
───あの中にいたら、窒息するんじゃないだろうかと不安になる。
Mar's Company の演奏を聞くのは、これが始めてだった。
失礼な話だけど、CDを聞いたことすら一度もない。
だけど───。
深いメッセージ性の込められた歌詞、複雑なメロディー。
コウ先輩の、優しい歌声。
とても、彼らが同じ高校生だなんて思えなかった。
───まるで、次元が違う。
わたしの感想が聞きたいというコウ先輩の言葉が、全く分からなくなった。
わたしの作る、基本のコードばかりの下手くそな歌なんて、比べる対象にもならない。
レベルが、違い過ぎる。
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