第75話

「好きだよ。」








何の躊躇いもなく、ただ真っ直ぐにわたしに目を向けて中田くんは答えた。


突飛な質問をしたのに、中田くんが普通に答えてくれたのがうれしかった。







「───ならね、これ、一緒に行かない?」


スカートのポケットに手を入れ、折り畳まれたチケットの一枚を取り出す。


それを掴んで差し出すと、中田くんは一歩わたしの方に近付いて手を伸ばし、チケットを受け取った。


そしてじっと、無言でチケットを見つめた。


妙な、沈黙が流れた。


下駄箱付近にはまだパラパラとしか人がいないから、すごく静かに感じた。






「いいよ。」






暫くして、中田くんはチケットを見つめたまま淡々とそう言った。


「え──?」


あまりにあっさりとした返答に、キョトンとしてしまった。


中田くんは今度は目線をわたしに移して、相変わらずにこりとも笑うこと無くそっけ無く言った。


「何時にどこに行けばいい?」

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