第74話

中田くんの黒い瞳が、真っ直ぐにわたしを見つめた。


真正面から見る彼の顔は、鼻筋が通っていて、想像していたよりもずっと整った顔立ちをしていた。


中田くんは立ち止まったままじいっとわたしを見ると、「何?」とそっけなく言葉を発した。


少し低めの深みのある───心の奥底に響くような音色の声。







初めて彼の声を聞いた途端、今更のようにうるさいくらいに胸が音をたて始めた。


だけど彼の顔はちっとも笑っていなくて、どちらかというと冷たい表情で、声のトーンも至って落ち着いていた。







「あ……あのね、」


どう切り出そうか躊躇してしまう。


わたしのことを知ってるかまず確認したかったけど、一応同じクラスなのにそれはさすがにおかしい気がした。





「あのね───音楽は好き?」


思わず、唐突で脈絡のないことを聞いてしまった。


絶対に変な顔をされる、と言ってしまった後で焦ったけど、中田くんはそのままの表情で平然と突飛なわたしの質問に答えた。

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