第73話

呼んでも、彼なら振り向かないような気もした。


スタスタと、そのまま入り口を抜けて校庭に出てしまうんじゃないか、って。


彼は、そんな雰囲気の人だから。






だけど中田くんは、ピタリと体の動きを止めると。


────ゆっくりと、わたしの方を振り返ったんだ。







実際は、ゆっくりなんかじゃなかったと思う。


だけどわたしの記憶の中では、彼の振り返る様がスローモーションみたいに繊細に記憶されている。


その姿が脳裏に焼き付いて離れないくらい、わたしの声に彼が反応してくれたことは、意外で、そしてうれしい出来事だった。

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