第55話

「ねえねえ、ユリナ。今日カラオケ行こう!」


はしゃぐユイのそんな声を背中で聞いて少し寂しく思いながら、わたしは教室を後にした。


廊下には、まだパラパラとしか人がいなかった。


まだ、大半のクラスのホームルームが終わっていないからだろう。


うちの担任は、ホームルームは短い方だからそれはすごくありがたい。







階段を降り、靴箱に差し掛かると──。


今日もやっぱり、そこにはわたしより先に彼がいた。


短い黒髪で、背が高くて、無口な彼。






───中田くん。







いつもは無意識のうちに中田くんを意識していたわたしだけど、今日は昼休み以降コウ先輩のことばかり考えていた。


何となく、彼を見るのが久しぶりに思えてしまう。






靴を取り床に置くと、しゃがんで靴紐を結んでいる中田くんの頭が目に入った。


思わず、その頭を見ながら考えた。


───彼は、どうしていつもこんなにすぐに帰ろうとするんだろう?


まさか、中田くんもバイト?


でも中田くんが接客とか、想像出来ない。


笑ったの、見たことないし。


そもそも、その目を真っ直ぐ見たことがない。

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