第48話

「てめ、なんだ急に!?ぶっ殺すぞ!!!」


倒れた男の後ろにいた長髪の男が、キレた顔でグレーのパーカーの彼に掴み掛かった。


だけど、またすぐに風を切る音と鈍い音がして。


グレーのパーカーの背中が、素早く動いた。


一瞬で、その長髪の人も床に倒れた。







「こいつ、目が正気じゃねえ。行くぞ。」


ふらつきながら立ち上がった長髪の男の人は少し怯えた目をして言うと、仲間を連れてそそくさとその場を去った。







「あの…!」


お礼を言おうとして呼び止めたのに、グレーのパーカーの背中は一度もわたしを振り返ることなく、闇の中に走り去って行った。


背が高くて、細いけどがっしりとした体つき。


両手を、ジーンズのポケットに入れて。


相変わらずフードをすっぽりと被り、わたしの声なんか聞こえていないかのように、そそくさと行ってしまった。







少し俯き加減の、パーカーの頭。


駅とは反対の暗闇の中へと消えて行ったその後ろ姿を、今でもはっきりと覚えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る