第49話

その日からだった。


顔さえ知らないグレーのパーカーの彼の存在は、わたしの中で急速に膨らんだ。


だけど、その日以降───。


彼は、いつものあの噴水の脇には来なくなった。







お礼だって言えてない。


それに何より、彼に歌を聴いてもらえないことが、こんなにも虚しいことだとは思わなかった。


ただ、もう一度、もう一度だけでいいから会いたかった。






そして、その日から1ヶ月が過ぎ、父が蒸発した。


わたしに歌うことの素晴らしさを教えてくれた父は、多額の借金だけを残して忽然と姿を消した。


わたしはもう、駅前で歌なんか歌っている場合じゃなくなってお金を稼がなきゃならなくなった。


バイトの面接をいくつも受けたけど、中学生だからと全て断られた。


バイトを探し始めて一ヶ月が過ぎた頃、気付けばあの駅前にまた来ていた。


そして彼のいた噴水の側にあるあの喫茶店を見付け、働かせて下さいと頼み込んだんだ。







彼にもう一度会えるかも知れないあの場所に、やっぱりいたかったから───。

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