第46話

その人は、絶対にわたしの近くに来ることはなかった。


いつも一定の距離を保ってあの噴水の脇から、わたしの歌を聴いていた。


段々と、彼に歌を聴いてもらえるのがうれしくなっていった。


わたしの目の前で立ち止まっている人じゃなくて、少し離れたところにいる彼に、精一杯歌を届けた。






何でかは、わからないけど。


言葉を交わすこともなく。


近付くこともなく。


───ただわたしの歌を聴いてくれている彼が、たまらなく愛しかった。

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