第38話

周りの視線を感じながらも、コウ先輩の元へと歩いた。


先輩は自分の目の前で立ち止まるわたしを、微笑を浮かべたままじっと見ていた。


近くで見たら、肌がツルツルで女の子の肌みたい。


茶色の髪は今日もフワフワと柔らかそうに揺れていて、その髪の下から覗く瞳は思ったより垂れ目気味だった。


「あの……。」


コウ先輩が一向に何も話そうとしないので、呼ばれた立場であるわたしは面食らう。


ただ、周りの視線が痛いので、早く要件を終わらせて欲しい。







するとコウ先輩が、紅い唇を開いてこう言った。


「藤井アゲハちゃん、だよね?」


「あ、はい。」


何でわたしの名前、知ってるんだろう?


コウ先輩は、少しわたしから目線を反らして教室の方を見た。


何を見たかは、よく分からなかった。


そして再びわたしを見て、こう言った。


「前から聞きたかったんだけどさ。」


「?──あ、はい。」










「歌うの、どうしてやめたの?」





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