第37話

「藤井さん。」


すると、ユイでもないユリナでもない女の子の声が突然わたしを呼んだ。


振り返ると、そこにはあまり話したことのないクラスの子が立っていた。


たしか、入り口付近の席の……。


「コウ先輩、呼んでる。」







「え?」


聞き間違いかと思って、聞き返した。


すると、その小柄な女の子は焦ったように早口でもう一度言った。


「だから、コウ先輩呼んでる!」


辺りのざわめきが少し止み、周りの視線が一斉にわたしに注がれるのがわかった。


「アゲハ、まじ?」


ユイの驚く声が、小さく響いた。







わたしは振り返り、廊下の方に顔を向けた。


すると、入り口近くに立ってじっとこちらを見ているコウ先輩と目が合った。


コウ先輩はわたしと目が合うと、にっこりと微笑んで見せた。


きゃあっ、と辺りの女の子達がまた騒ぎ出す。






何でわたし?


話したこともないのに。


何の用だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る