第25話
わたしも、皆と一緒だった。
自分の幸せな未来を、信じて疑いもしていなかった。
優しい父と母。
そして、夢中になっていた『あること』。
毎日が幸せで、全てが揺るぎないものだと思っていた。
───去年の今頃までは。
去年の夏、父が蒸発した。
突然の出来事だった。
ダイニングテーブルに突っ伏して泣きじゃくる母の姿は、わたしの心に大きな傷を作った。
あんな母は、初めて見た。
気が狂ったように泣きわめき、髪を掻きむしっていた。
彼女も信じて疑っていなかったのだろう。
───自分の未来を。
優しくて、気が利いて、家事だって進んでしてくれて、家族思いだった父。
いわゆる、理想の父親だと思っていた。
だけど彼が忽然と消えた後には───
多額の借金だけが、残った。
どうして借金なんかしたのかなんて、わからない。
はじめは思っていた、何かの間違いだ、って。
「冗談だよ。」って、笑って戻って来てくれるって。
だって、あんなに優しい父だから。
だけど父からは何の音沙汰も無いまま数ヶ月が過ぎ、精神的ストレスと慣れない仕事疲れから、日に日に痩せ細る母を見て自覚した。
───わたしの父は、ただの、どうしようもない程愚かな人間だったんだということを。
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