第20話

思わず、乾いた唾を飲む。


自分でも何で緊張しているのか、わからない。





ただ、背を向けた彼の真っ黒な頭がわたしより大部高い位置にあること。


その頭の裏側にある恐らく黒い瞳が、やっぱり今日もわたしを映しはしないであろうこと。


───無意識に、考えてしまう。







彼の紺色のズボンが、視界の角に映る。


床に叩きつけるようにしてスニーカーを投げ置くと、彼はしゃがみ込んでそれを履き始めた。


わたしも彼からやや距離を取って隣で靴を履きながら、ちらり、彼を見てしまう。






スッと通った鼻筋に、伏せられた睫毛。


彼が見ているのは、ただ彼の足元で。







───やっぱり今日も、彼の瞳にわたしは映っていなかった。

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