第16話

「好きな人、かあ。」






ぽつり、呟いたわたし。


廊下にいる、コウ先輩の綺麗な顔を見つめる。


コウ先輩は、無表情でただこちらを向いている。


そんな彼に投げ掛けられる、キャアキャアと小さく叫ぶ女の子達の声。


そこでユイが、大きな目をにやつかせながらわたしとユリナを交互に見て、思いも掛けないことを言って来た。


「わたし、絶対コウ先輩が好きなの、アゲハかユリナだと思うんだよね。」







「え?」


「はあ?」





わたしとユリナが変な声を出したのは、ほぼ同時だった。


目が点のわたしに対し、ユリナは明らかに怪訝な表情。






「だってユリナはすごく美人だし、アゲハはこのクラスの男達に一番人気らしいから。」


ニタニタと、意地悪な笑みを浮かべてそう言うユイ。


「ふうん。まあ、男はアゲハみたいの好きだからねえ。多分アゲハだよ。」


ユリナは表情を緩めて、わたしのことにだけ触れてきた。






「いやいや…コウ先輩に好かれるとか、それは絶対ないよ!話したこともないし。」


慌ててそう言うわたし。


綺麗なユリナならともかく、わたしはあり得ない。


地味な顔だし、目立たないし。


ユリナみたいに髪を巻いたりなんてしたことない、ただの黒髪のセミロング。


お化粧だって、少し色のついたリップを塗る程度だし。

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