第2話

夕方6時、自習室はすでに人でいっぱいだった。窓から差し込む夕陽が部屋を橙色に染め、生徒たちは各々、机に向かって集中している。試験期間が近づくにつれ、自習室は夜遅くまで開放されるようになり、勉強に追われる生徒たちが次々と集まってくる。そんな中、3人の生徒が同じ机を囲んでいた。


一番最初にその机に座っていたのは月沙だった。彼女は学校でトップクラスの成績を誇るが、それでも一層の努力を怠らない。今日は物理の問題集に挑んでいたが、ふと、横の席に目を向けると、ちょうど結雨が席に着くところだった。


「お、月沙。今日もここ?」


結雨は苦笑いしながら、自分のカバンから参考書を取り出した。彼女は国語が得意だが、理系の科目には苦労していた。そんな結雨にとって、月沙の存在は頼もしいものだった。月沙は結雨に軽く微笑み返し、物理の公式に戻る。


しばらくして、3人目のメンバー、花華が入ってきた。彼女は特に数学が得意で、いつもクールな表情を浮かべているが、実は誰よりも面倒見が良い。花華は他の自習生に軽く会釈をし、月沙と結雨の隣に座った。


「今日も集まったね。そろそろ休憩する?」花華が腕時計を見ながら提案した。


時計はすでに6時を過ぎていた。3人はほぼ毎日、勉強の合間に売店で軽い食事を取るのが習慣となっていた。自習室の利用者も増えてきたことだし、机を確保するために、1人が残って他の2人が売店へ行くという暗黙のルールが3人の中でできあがっていた。


「じゃあ、私と結雨が行ってくるね。花華はここで席確保しておいて。」月沙が席を立ちながら言った。


結雨も立ち上がり、二人は静かな足取りで自習室を出た。学校の廊下を歩きながら、結雨がふと口を開いた。


「今日もコーヒーにする?それとも紅茶?」


「今日は紅茶にしようかな。ちょっと落ち着きたい気分。」月沙は微笑んで答えた。


売店に着くと、簡単な軽食や飲み物が並んでいた。3人がよく利用するのは缶コーヒーや紅茶、そして小さなサンドイッチ。勉強の合間にこれを食べることが、彼らの日常の一部になっていた。結雨はコーヒーを2本、月沙は紅茶を1本手に取り、さらにサンドイッチを3つカゴに入れた。


「今日は結構混んでるね。」結雨が列に並びながら言った。


「うん、試験前だからみんな焦ってるんだろうね。」月沙は答えながら、カウンターの向こうで忙しそうに働く売店のスタッフに視線を向けた。


二人が買い物を終えて自習室に戻ると、花華は机の上に教科書を広げたまま、じっと問題集と睨めっこしていた。


「お待たせ。今日は紅茶だよ。」月沙が缶を花華に差し出すと、彼女は無言で受け取り、小さく頷いた。花華はあまり多くを語らないが、それでもその小さな仕草が、彼女なりの感謝の表現だと二人は知っていた。


3人はサンドイッチをそれぞれ手に取り、一口ずつ食べながら、ほんの少しのリラックスした時間を共有した。食事をしながらも、話題は自然と勉強に移る。花華は数学の問題を解きながら、月沙に質問を投げかけ、結雨は自分の国語の理解度を確認するために朗読を始める。勉強を中心に据えながらも、3人で過ごすこの時間は、どこか特別な安らぎを感じさせるものだった。


「この問題、ちょっと難しいね。」結雨が物理の教科書を見ながら苦笑いする。


「大丈夫、ゆっくりやれば解けるよ。私も最初は苦労したし。」月沙が優しく声をかける。


3人はお互いに支え合い、勉強の道を共に進んでいく。この瞬間が、彼らにとってのかけがえのない時間だった。勉強という一見単調な作業の中で、彼らは友情を超えた深い信頼感を育んでいた。これからも続くであろう、長い道のりを共に歩むために。


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