窓際の青空

紙の妖精さん

第1話

静かな夕暮れ時、中学校の自習室には、まだ数名の生徒が残っていた。外の光が薄れ、窓際に座ると夕日がゆっくりと差し込んでくる。机に並んだ教科書とノート、そして参考書のページをめくる音が、部屋に微かに響いていた。


月沙(つきさ)は、自習室の片隅で一心不乱に問題集に取り組んでいた。周りのざわつきも気にせず、黙々と勉強に集中していた彼女は、クラスでもトップの成績を誇る優等生だった。彼女は、常に計画的で、自分のペースで勉強を進めるのが得意だった。しかし、同時に彼女は、あまり他の生徒とは積極的に話すこともなく、どこか一人でいることを好む性格だった。


その日、月沙は自習室でいつも使っている席に座っていたが、気づけば周りの席が埋まり、空席がほとんどなかった。彼女の隣の席に、結雨(ゆう)がそっと腰を下ろした。結雨は、少し緊張しながらも月沙に一言声をかけた。


「ここ、座ってもいい?」


月沙は一瞬、相手を見上げたが、すぐに小さくうなずいて再び問題集に目を戻した。結雨はためらいながらも、手に持っていたノートと参考書を机に広げ、勉強を始めた。


結雨は、月沙ほどの成績ではなかったが、努力家であった。彼女はいつも時間を見つけては自習室に来て勉強していたが、成績が伸び悩んでいることに悩んでいた。そんな中、月沙のような優等生の隣で勉強できることが少し嬉しかった。


しばらくの間、二人は無言で勉強を続けていた。自習室の静けさの中、たまに鉛筆が紙を走る音や、ページをめくる音だけが聞こえる。結雨は少し勇気を出して、隣にいる月沙に話しかけた。


「この問題、難しいね。解ける?」


月沙は一瞬手を止め、結雨のノートをちらりと見た。そこには、数学の応用問題が書かれていた。月沙はペンを持ち替え、無言で自分のノートを開き、同じ問題を解き始めた。数分後、月沙は静かに口を開いた。


「この問題、ここがポイント。解き方の流れはこんな感じ。」


結雨は驚いた。月沙が口を開いて話しかけてくることは滅多にないと思っていたが、その解説は非常に分かりやすく、一瞬で問題が解けた。


「すごい...ありがとう!」


結雨の目が輝いた。月沙は照れ隠しのように軽く微笑み、再び自分の勉強に戻った。


その時、遅れて自習室に入ってきたのが花華(はなか)だった。彼女は、少し慌ただしく自習室の扉を開け、空いている席を探した。しかし、自習室はほとんど満席で、彼女はどうしようかと迷っていた。


結雨が花華に気づき、手を振った。


「ここ、空いてるよ!」


花華は少しほっとした表情で、結雨の隣の席に座った。結雨と花華は、以前から同じクラスだったが、特に親しいわけではなかった。しかし、結雨は花華が自習室に来ることが多いことを知っていた。


「ありがとう、助かった。今日は本当に混んでるね。」


花華は、持ってきた英語の教科書を広げながら、結雨に微笑んだ。彼女は穏やかで優しい性格で、誰とでもすぐに打ち解けることができた。結雨と花華は、自然と勉強の話を始め、互いに問題を出し合ったり、わからないところを教え合ったりしていた。


少し時間が経ち、月沙が再び隣の二人に声をかけた。


「私も手伝おうか?もしわからないところがあれば。」


それが、3人の初めての会話だった。月沙が自分から声をかけるのは珍しいことだったが、彼女は二人が真剣に勉強している姿に共感を覚えていた。そして、自習室での偶然の出会いが、3人の絆を深めるきっかけとなった。


その日から、放課後になると3人は必ず自習室に集まるようになった。勉強に励みながら、少しずつお互いのことを知り、信頼し合うようになっていった。3人はそれぞれ違う強みを持ちながら、互いを尊敬し、支え合うことで成長していく。そして、いつしか3人は、一緒にいることが当たり前になっていた。


高校受験という大きな壁を前にして、彼女たちは一つの目標を共有することになる。同じ高校に進学し、これからも一緒に頑張り続けること。それが、3人にとっての新たな挑戦であり、同時に絆をさらに強くする試練だった。


だが、まだその時は、彼女たちが将来どういう道を歩むか、誰も知らなかった。ただ、彼女たちはこの瞬間を大切にし、3人で支え合いながら、毎日の勉強に取り組むことだけを考えていた。


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