07:星は君の元に降ってきた

 いつものように僕は夢を見る。

 夢の中では君が待っていて、現れた僕にいつもの笑顔を見せる。

 僕は君の横に並んで歩く。


 君は僕に問い掛ける。

 今日はどんなことがあったのか、何を思ったのか。

 たいしたことでなくとも、君は興味深そうに僕の話に耳を傾ける。

 少し歩くと、いつものベンチがあって、二人で腰を下ろす。

 僕の話はまだ終わらず、というもの、朝起きたところから、今までのことをだらだらと事細かに話すからだ。

 君が聞いてくれるから。

 君は、必要なだけの相槌を入れるだけで、後はただただ黙って僕の話を聞く。

 僕は、少しでも君といたくて、話を長くさせるのが常だった。


 僕の行動は昼を経て、夜へと至る。

 寝る少し前に、ネットをしていたことを告げると、話すことは残り僅かになってしまう。

 話が終われば君が消えてしまうのはいつものことだったので、続きを話すのが苦痛になってきた。


「何を見ていたの?」


 彼女の声が鮮明に響いた。

 僕のためらいを感じたのだろうか、気遣うような感じが伝わった。


「君の詩だよ」


 僕は正直に答えた。

 僕は君が作った詩を公開しているブログのファンだった。


「どうだった?」


 知ったのはつい最近だけれど、毎日見ていた。何だか恥ずかしくて君には秘密にしていたけれど。


「うん、僕は好きだ」


 君の詩は、君が直面した現実や、理想とする世界がそのまま表現されているように感じていた。

 脚色なく、素敵なもの、キライなもの、心をうつもの、雑然と並ぶ中の美しさ。

僕は好きだ。


「ありがとう」

 

 君はそう呟くように口にして、僕に笑顔を見せて立ち上がった。

 2、3歩進んでベンチに座ったままの僕の方へと振り返る。


「もう行くの?」

「うん、もう行かないと」


 寂しそうな顔。

 今までは笑ってまたね、と手を振ってくれた。のに。

 少し焦った。


「行くってどこへ?」

「……空」


 答えは簡単だった。


「昇っていくの、やっと昇って行けるの」

「もう会えない?」

「うん」


 その時、1つだけ空に光っていた星が、流れ星に変わった。

 星が君の元へ振ってきた。

 座布団ぐらいの大きさの星に、軽やかに飛び乗ると、君は僕に背を向けた。


「わたしね、もっと詩、書けばよかった」


 そう言ってから、僕の方をようやく振り返った君は笑顔だった。


「もっと生きればよかったね」


 そうだ。

 毎日みていた君のブログは半年以上も更新されていなくて。

 最後に書き込んであった日記は


 ようやく私は解放される


 その一行のみで、止まっていたのだ。


 僕が君の事を知ったのは、君が解放されてからだったから。

 僕はもういない君に思いを馳せていたのだ。


「そうだよ、もっと君のことを知りたかった」

「消えたかったの。でも、見つけて欲しかった」


 君は矛盾を口にして少しだけ泣いた。


「見つけたよ」

「そう、あなたが見つけてくれたから、消えなかった」

「悪いことをしちゃった?」

「ううん」


 君はかぶりを振って見せた。


「好きって言ってくれて、嬉しかった。本当にありがとう」


 言葉の余韻だけ残して、彼女を乗せた星は光の速さで飛んで消えていった。

 僕は1人残された。



 そして、目が覚めた。

 パソコンの前で転寝をしていたらしく、画面はまだ、最後に見た画面のまま。

 僕の好きな彼女の詩だった。

 白い画面にちりばめられた、彼女の愛した世界の詩を読んだら、鮮明に覚えている夢を思い出して、鼻がつんと痛くなった。

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