06:ガラス玉はきらきらと

 小さな金魚鉢の中にビー玉が8つ。

 私の大事な宝物。


 金魚のいない金魚鉢。

 絶えず水を換えてはお日様に光に当てる。


 いつ金魚が帰ってきてもいいように

 ただひたすらに私はその場所を守っている。



 金魚鉢にビー玉をいれたのは私がまだ小学生の時。

 「砂利の代わりにビー玉を入れたらお洒落だよ」と友だちと二人、金魚が泳いでいた鉢の中に縁日で買ったビー玉を落とした。


 『お洒落』であることが最大にステータスだった小さな私。

 水の中できらきら光るビー玉とその中を泳ぐ金魚の赤の美しさがお洒落なんだと思い、その日からうっとりと金魚鉢を眺めるのが日課になり、それを所有しているのが自分であるという幸せに浸ったものだった。

 恐らく金魚もこの水槽で泳ぐことを誇りに思っているに違いないなどと思い込んでいた。

 お金持ちの大きな水槽で泳ぐよりも、川で泳ぐよりも、このお洒落な金魚鉢にいる方がずっと素晴らしいことなのだと。


 初代の金魚たちが死んだ後、何度か金魚たちをこの金魚鉢で飼っているが彼らが死んだあとはいつも「また生まれ変わったらこの中においで」と語りかけてきた。

 私のお洒落な金魚鉢でまた泳ぐことは栄誉あることなのだと、そう思っていたから。


 また新しく金魚を飼いたいな、赤くてひらひらした金魚がいいな、と私が言ったらあの人は「出目金がいい」と言った。

 黒とビー玉は似合うのかわからないけど、素敵ね、というとあの人は得意げに笑った。


 金魚が出目金に生まれ変わることもあるかもしれないから。

 私はその日が来るまで金魚鉢の美しさが損なわれないよう守り続けるだけだ。



   今日も電話は鳴らない。

   あの人は帰ってこない。



 まるで宝石のように金魚鉢の中にはガラス玉がきらきらと輝いている。

 私はそれをうっとりして見つめ、来るはずのない日を待っている。

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