第23話 こんな食べ物知りません!

 翌朝、いつもの宿に泊まった俺たちは、いつも通りのうるさい爆音が鳴り響いたあと、同じ宿に止まったクレアとルナが部屋を出ると、それぞれつま先を立てて伸びていた


「あ〜久しぶりにちゃんとしたベットで寝ましたよ、住み込みの時に寝たソファーではもう寝たくないです」


「ほんとだな、布団無しだなんて、もう二度とごめんだ」


 徹夜してまで研究してくれた二人は、久しぶりのベッドからの目覚めを気持ちよさそうに噛み締めていた


「ほんとによく頑張ってくれたな、とりあえず朝食とって、そっからアスカラに行こう」


 そう言うと宿を後にして、外食する事にした俺達は、街を歩いていた


「じゃあ、あの居酒屋に行きましょう!まだボトルを飲み切れてないの」


「また俺飲まされるんじゃねぇだろうな」


 あの時、一杯飲んだだけで体がポカポカしてきて気分は確かに良かった

 ただそのあとしばらくして吐き気が止まらなかったのだ

 吐いてはいないが、何となくフラフラしていい気分ではなかった覚えがある


 ルナによると、一気に一杯を飲んだせいでアルコールの処理が追いつかなかったらしい

 もう酒は飲みたくない


「大丈夫よ、もうお酒は無理やり飲ませないって決めたの、だから、飲みたいと思うまで待ってあげることにしたわ」


「絶対そんなことありえないから諦めろ」


 何故か未だに俺に酒を飲ませたいリリスがそんなことを言ってくるが、もう飲まないと誓ったのだ、絶対飲んでやるもんか


「とりあえず、朝食はどこで食べるんですか?」


 クレアが俺に聞く


「うーん、ここに来たばっかだからまず何があるのかすらもわかんないんだよな」


 今思えばまだここに来て一週間しか経っていない


「ルナ、オススメの店とかないのか?なんか教えてくれよ」


「ん〜オススメと言われてもお前と会う前は城で食べさせてもらってたからな、この街のことなんざなんも分からん」


 なんだその自慢話、俺も城で食べたい


「マップとかないのか?なんか美味しそうなもの食べれる店とか乗ってるやつ」


「あったら見せてる」


 ごもっともなルナの言葉に俺はどうしようかと悩む

 もういっか、適当に美味しそうなやつ食べよう

 考えても仕方ないので、横にある店を見ていいのがないか探す

 すると、年季が入ったいかにもな見た目の店の看板にでっかく「寿司」と書いていた


「まじか、ここにも寿司あんのかよ!みんな行こうぜ!」


「す……寿司ですか?あなたがそう言うならいいですけど、珍しいですね?寿司好きな人」


 嬉々として報告する俺に何故か訝しげに見るクレア達

 この世界の人は生魚とか苦手なのかな?

 少し嫌な予感がしつつも、店内に入ることにした


 中に入ると、そこは味のある木材で出来た柱を中心に、カウンター席とテーブル席がある、流石に畳や座布団はないが、それでも日本で見るお古なお寿司屋さんと言うには十分な内装だ


「おお!俺の国の寿司屋と雰囲気ほぼまんまじゃねぇか、俺知ってるぞ、こういう味のある年季の入った感じの店はいい店って相場が決まってんだ」


「寿司にいい店?まぁいいわ、とりあえず座りましょう」


 リリスがそう言うとテーブル席に座ったので、俺らも同じテーブル席に座る

 そして俺はメニュー表を見ると……


「は?なにこれどゆこと?」


 見ると中心にバカでかく「寿司」と書いてあるのと下ら辺に「水」と「お茶」って書いてあるだけ……

 なにこれ、舐めてるだろこのメニュー表、つかなんだよ一つ五百円って、だいぶ高級だな


「なぁこれどうなってんだ?メニュー表に寿司ってバカでかく書いてる寿司屋があってたまるか」


「寿司屋だから寿司が売ってるに決まってんだろ」


 ルナがそういうが、ちゃうやん……そういうことじゃないやん!


「もっとあるだろ、マグロとかサーモンとか!なんでメニュー名が『寿司』なんだよ!」


 そう言うとリリスがさぞ当たり前かのように


「そりゃ、寿司屋だからよ」


「ぬあああああ!!!」


 舐めんな


 とりあえず俺らは文字通り”寿司”を食べるために店員を呼んで注文した

 ここまで来たらもうさっさと食ってまだ別のところ食べに行こう

 そう思い待っていると奥から店員が来た、その店員が持っているのが”それ”なのだろうか

 それは米を四角く固めて、上に魚が乗っている

 ここだけ聞けばただの寿司だ、だが


「異世界っつーのはいつもこうだ!いつもいつもいつも!俺の予想を悪い意味で裏切りやがってクソがァァァ!」


 それは大量の米に、丸ごと鯛が鎮座した寿司もとい、何かだった


「お前らはこれを寿司だと言い張るのか?どういう神経してんだよマジで!何食ったらこんなん思い付くんだよ!」


「おちつけよ和也、寿司ってのは元々料理なんてあってなかったような時代に出来た伝統料理だ、知らなかったなら仕方無い、食べるしかないな」


 ルナがそう言って俺をなだめるが、純血日本人としてこんなもん見せられたらキレるしかない


「だいたいこんなんどうやって食えばいいんだよ!丸々ってなんだよ聞いた事ねぇよ!」


 俺はこんなもん食うために五百円払うのか……

 ベチャベチャした米と生臭い匂いが口に広がるとともに、次からしっかり調べてから食べ物を選ぶと心に決めた

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