第24話 美しい森を冒険しました

一時間が過ぎた頃だろうか、何とか料理とも言えない寿司モドキを、渡されたナイフとフォークでみんなに分けながら完食した

正直もう二度とここの寿司なんか食べたくない


「一体どんな国に住んだらそんなもん食べたくなるんだと感性を疑ったが、どうやら同じ感性で安心したよ」


ルナが俺に向けてそう言う

あんなもん寿司と言い張ることすらおこがましいが、ここの住民が寿司嫌いな理由は痛いほど分かった


「もし料理が得意だったら、ルミナリア国の住民に俺の国の寿司を食わせて認識を改めてさせるところだが、あいにく包丁すら握ったことないからなぁ」


かろうじて、この世界にも醤油があったり、生で食えるほどには新鮮だったので完食はできたものの、口に広がる青臭さは、醤油ではカバーできなかった、正直あんなの二度とごめんだ

俺は最悪な朝食を食わされたあと、そろそろ本題に戻るため、転送屋に向かう


「前々から気になってんですが、和也さんの国ってどういう国なんですか?」


「俺の国は様々な美食家達が集う日本っていう国で、そこでは皆がグルメ界の食材を巡り、その食材でほっぺが落ちるほど美味しい料理を作る、素晴らしい国だよ」


「へぇ〜そんな国があるんですね!私もいつか行ってみたいですね」


クレアに適当なことを吹き込みながら、街の風景を改めて見る

中世ヨーロッパ風の美しい石レンガ出できた街並みは相変わらず、ヘアリーピッグの丸焼きを売っている露店や謎のロシアンポーションを売っている危なそうな店を開いている


ヘアリーピッグの丸焼きはクソでかいし、ロシアンポーションに関してはハズレ引いたら死にそう、こんなめちゃくちゃなのに何故か人気があるのか、ここ付近では人が多い


「あ!あそこの酒ダルを売っているところは確か味に定評のある発酵クリムゾンベリーのワイン専門店じゃないかしら!ここにも売ってるのね!」


「そんなもんあるのか、ここにもってことは有名なところなのか?」


そう聞くとリリスは目を輝かせて


「前にお酒巡りしていた時にね、お酒で有名な『ブーズ』という国に行ったの、そこでさっきのワインが売っていて、それが私の一番のお気に入りなの、あなたも飲む?」


「いいです」


そんな話をしていたらいつの間にか転送屋に着いていた


「今回もアスカラ国にお願いします」


そう言って四人分の七個の銀貨を渡すと、フードを被った人が杖を地面に叩き魔法陣が現れる、そして光が現れ、それが俺らを包んで転送する

テレポートとか魔法とか、ファンタジーには欠かせないのは分かるのだが、原理とか説明出来るんだろうか?

そんな思いにふけっていると、もうアスカラ国に着いていた


ここに来ると相変わらず美味しい空気に清々しい気分になる、あんなレベルの高い国はやめて本拠地ここにしようかな

そんな身の内を知ってか知らでか、ルナは俺を一瞥したあとその身を伸ばす


「よし、じゃあ早速行こうか」


ルナはそう言うと、街外れのけもの道を進み始める

事前に準備しておいた銃を片手に、俺らも後をついていき、緑溢れる綺麗な景色を眺めつつ目的地に向かって進む


「こうして歩いているだけでも、自然って癒されるな」


「だな、これを見ているだけでこの景色を守るに値する価値があるってものだ」


そういえばこいつ自然の精霊だとか言ってたな、普段グースカ寝てるだけな気がするが前は何してたんだろうか


「あっ!見てくださいあれ、リトルウルフですよ!」


そう言うとクレアはある木の上の一点を指さす、そこには猫くらいの、綺麗な灰色のオオカミがいた

そいつは俺達を見下ろす形でじっと見ていた

なにあれ超可愛い

そんなことを考えてくる俺の耳に突然聞いたことの無い声が入ってくる


「お前たち、見ない顔だがこの森に何しに来たんだ?」


その声はまるで変声期前の子供のような声、しかし声の主が分からない


「何をキョロキョロとしているんだ、私を見ろ」


そんなこと言われてもどこにいるのか……


「和也さん、あの木の上にいるリトルウルフですよ」


「へ?」


再度見るとリトルウルフは少し怪訝そうな顔でこちらを見る


「なんだ?私が喋るのは知らなかったのか?」


見た目はほんとにただの獣なんだが、確かに声と口が連動して動いてる

この世界動物まで喋るんだ

そんな異世界チックなファンタジー要素に感動していると、リトルウルフは質問する


「もう一度言うぞ、この森に何しに来たんだ」


「何しにって、黄色草を取りに来たんだよ、クエストの依頼でね」


「クエストの依頼?黄色草は数少ない洞窟植物だから、取られると困るんだが、用途はなんだ?」


用途?そういえばなんで黄色草に七十五万もかけて欲しがってるか聞いてないな

するとルナは答える


「黄色草はある病気の治療薬として使われているんだ、その依頼主もきっと治療薬として使いたいんだろう、だから取りに来たんだ」


「ね、猫が喋った!?」


リトルウルフは黄色草の説明より猫が喋った事の方に反応を示している

リトルウルフが喋る事自体おかしい気がするが、その当人でさえ猫は喋ると驚かれるとは、この世界の全容が掴めん


「にしてもお前さん、リトルウルフにしては風格のあるヤツだな、その様子を見るに普段こういう事をしているとみたが、誰なんだ?」


ルナはリトルウルフに質問する


「私の名はラスピラズリ、フェンリル国に仕える、森の番犬をしている者だ」


「「「フェンリル国?」」」

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