第19話 必勝法には罠がある

「「じゅう??」」


 リリスとクレアがなんだそれと首を傾げて聞く

 この世界には遠距離武器がない、精々魔法で具現化したエネルギーの塊を飛ばす程度だ

 もしそれが出来ればこの世界ならば無双できるんじゃないかという発想だ


「詳しい機構は知らないが、薄い金属の円柱の中に爆発するポーションの中身を中に入れて、雷管に刺激を与えて空気圧の推進力を利用して弾頭を切り離して相手にぶつける感じだ」


 銃なんてもん、勿論高校生に作れる訳ないし専門知識を持ってる訳でもないが、FPSで興味が湧いたときに少し調べていたのだ

 確か銃がなくても弾さえあれば後ろの部分を石で叩くと撃てるという話も聞いたことがあるので、素材があれば形になるんじゃないかと思ったのだ


「それがお前の国の武器なのか?だいぶ奇想天外というか、だいたいお前はまだ若いだろ?専門知識も無いお前に作れるわけないだろ、厨二病でも発症しちまったか?」


「ルナが言いたい放題だが、何事も行動しなければ始まらない、思い立ったが吉日だ」


 そんな一人盛り上がっている俺に対してクレアが手を打ち、目を輝かせる


「もしかして私が研究していた『魔素圧縮発射装置』の事ですか!?」


 そんなん聞き覚えが無いんだが、もしかしたらクレアも似たようなものを作っていたのか?

 意外と前向きな反応と、聞いたことも無い単語に首を傾げていた俺にクレアが説明する


「あれは魔力の元となる魔素を圧縮し、エネルギーに変換される時の膨張で毒などを発射させる仕組みなのですが、回転率が極めて低い事、そして魔素補給のためのマナクリスタルのコストも高いことから私の仲間からバカにされていたのですが、爆発させるポーションを使えば確かにできそうです!!」


 いきなり早口で説明するクレアに引きつつも、似ている機構を既に開発していたとなれば話が早い

 タイムリミットは六日、取りに行くことを考えて二日は欲しいので研究期間は四日


「制作時間は四日間、作れるか?」


 するとクレアは自信満々の表情で


「任せてください!今度こそ同僚に一泡吹かせてやりましょうとも!」


 と宣言した


 あのあと俺達はルミナリア国に帰宅し、ルナとクレアは研究室に向かい、残った俺たちは適当に散歩していた

 俺も研究の手助けをしようと思ったが、素人の俺がそこにいても邪魔になるだけだなと考え、ルナとクレアに任せて俺は大人しく外で吉報を待つことにした

 一応素人なりに頑張って書いたイメージ図を書いて渡しておいた

 バレル、ライフリング、バネ、薬室、弾薬の事などの基本的な部分だ

でも俺も全体までは分からないため、他は任せることにした


「にしても、なんでただの一般人がこんなに知ってるの?実は昔、凄腕の研究員だったりするの?」


 リリスが不思議そうに俺に聞く


「俺のやってるゲームってやつにあれが出てきてな、気になって調べたことがあるだけだよ」


 爆発するポーションを見た時にニトロみたいだなと思い、ピンと来たのだ

 確かダイナマイトの原材料で衝撃を与えると爆発する

 爆発物を作っても良かったんだが、それならポーション投げればいいし、火薬代わりにこれで銃作れば無双できるという算段だ


「にしても、残りの期間は四日しかないけど、そう簡単に出来るものなの?かなり複雑そうなんだけど」


「意外と簡単だよ、要するに弾薬に撃針で刺激を与えて金属塊を飛ばすだけだ」


 リリスは聞いてもよくわからんとばかりに首を傾げているが、多分ルナ達なら大丈夫だ、きっと作ってくれるはず……大丈夫だよな?


「まぁ待ってる間暇だし何かしようか、なんかやることあっかな」


「じゃあやっぱりレベル上げとかどう?」


「もう短剣オンリーで戦いたくないんだが」


 俺が即答するとリリスは胸を張って自信満々にこう答える


「大丈夫よ!私に作戦があるの!」


 すっごい嫌な予感がするが、そう言ってリリスはルミナリア国の外の森に走っていったので仕方なくついて行くことにした


 着いた先は森を少し進んだところにある草原だった

 地面は芝生一面で、澄んだ空気が心地良い

 そして、その草原にはかなり毛深い、牙がかなりでかいイノシシのような生き物が3匹歩いていたんだが……


「おい、まさかあれを狙うのか?短剣とパンだけじゃどう考えても厳しいサイズな気がするんだが」


 そのイノシシの大きさは高さ三メートルもある巨体だった

 なんでこんなデカいの?何食ったらこんなでかくなんの?象かなんかだろこれ


 しかしリリスは相変わらず自信に溢れた表情で


「ええ、もちろんアイツらをやるのよ!任せてちょうだい、ここにたどり着くまでに私がレベル上げした必勝法を使うわ!」


 もう嫌な予感しかしないんだが!また死にかけたらルナが居ないからもう回復もできないぞ!

 そんな俺の心配をよそにリリスが向かっていく

 見た目的に絶対温厚じゃないタイプなのにリリスは恐れを見せずに突っ込む


「バカ!お前ほんとに死ぬぞ!あのサイズはどう考えてもおかしい!!」


 だがしかし、リリスが近付いてもその生き物は動く気配がなかった

 その生き物はリリスをじっと見るだけで何もしてこない

 普通はおかしい状況だが、前にもみた気がする、確かゴブリンの時もそうだった


「私の魅了であのヘアリーピッグの動きを止めるから、和也さんは息の根を止めてやってちょうだい!」


 おお!ここに来て大活躍じゃねぇか!これなら一方的に狩れる!

 無抵抗な生き物を一方的に狩るのは罪悪感を感じるが、これも生き残るためだと心を鬼にして短剣を突き刺す

 意外と硬く、時間はかかったが三体倒し着ることに成功した

 あとはもう、このまま何も起こらずにイノシシモドキを換金すれば!


「ほら、私の言った通り楽勝でしょ?いやーほんとこんなに楽して稼げるなら最初からやっときゃ良かった!」


 そんなわかりやすいフラグを……


「おまっ……これでまた厄介なやつが来たらどうするんだ!俺知ってるんだぞ!フラグをたてたあとは大抵面倒事がっ……!」


 そう言いかけた俺はふと目に入る

 先程のイノシシのような見た目だが牙がない

 なんだコイツならまた魅了で動きを止めれば

 そう思った俺はリリスの方に振り返る

 しかしリリスはもうそこにはいなかった

 遠くの方に目をやれば、何やら遠くからこちらに向かって叫んでいる


「和也さん逃げるわよ!あれはメスのヘアリーピッグ、私の魔法は効かないわ!」


「クソッ!なんで毎度毎度こうなるんだよ!お前フラグ立てたんだがら責任とれよォ!!!」


 俺は煙を上げ、ドスドスと音を鳴らして全力で迫り来るメスのヘアリーピッグに必死で逃げながらリリスに向かって叫んでいた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る