第16話 折角なので、観光します
「ちょ……まっ!!」
無防備だと警戒を怠って近づいた俺の目の前には刃物を持ったゴブリン
そのゴブリンのダガーが、俺の腹部を突き刺した
「「和也さん!!」」
刺された部位からは血が滲み、激痛というより熱い感覚が俺を襲う
「ッッッックゥッッッ!!」
俺は地面に転がり込んで丸くなる
ヤバい……汗が凄い……
なにこれ、俺死ぬのか?
「……です………ああ……すれば……」
仲間が何か言っている気がするが、俺の耳には入らない
次第に腹部の痛みが麻痺して、じわじわ暖かくなっていき、痛くなくなってくる
そうか、俺はこのままもう……
そして俺は何故か死ぬというのに冷静だった
思えば少し楽しかった、前までは友達が少なく、話す機会なんてほとんどなかったのに、この世界では女性と話す機会が多かった
使い魔ができたり、新たな仲間ができたり(1人サキュバスだが)今思えば充実していた
ここに来て3日間しかたってなかったが、いい思い出ではあっただろう……
「おい、しっかりしろ」
ルナの声が聞こえてくる、きっとこれが走馬灯とかだろう
勝手に使い魔として仕えていたとはいえ、まだなんにもしてやれてないし、申し訳なかったな
親にもまだ感謝してないのに……死ぬのか
「おい、もう痛くないだろ、なにしてんだ」
ルナ、急かさないでくれ、まだ思い出に浸ってたいんだ、そしてこの世を
「早く起きろ、別のモンスターが来るだろ」
「だァァァ!人が死ぬ前に、しんみりと記憶を思い出しているって時に!!邪魔すんなぁぁぁー!!」
「何言ってんだ、死ぬわけないだろ、自分が着いてるんだから」
は?何言ってんだ、腹部刺されたらそら死ぬだろ
俺は再度腹部を確認して……あれぇ?
刺されていたはずの腹部が治っている、服に血が滲んでいるから刺されていることには間違いないはずなんだが
「自分は自然を司る精霊だぞ、これくらいは楽勝だ」
「マジかよ一生ついて行きますルナ様」
どうやら回復魔法みたいなので助けてくれたらしい
ほんとに、ほんとに死ぬかと思った
見ると既に腹部がなにかに貫かれたかのような跡を残して横たわるゴブリンや、ドロドロに溶けたゴブリンが居た
それは多分クレアの毒とフランスパンの突撃だろう……まさか俺、フランスパンにも負けるほど弱いのか?
「なぁ、自分でクエスト受けといてなんだが、悪魔の巣窟なんか行ける気がしないんだが」
「お前が受けたんだろ?やっぱアホなんだな」
ぐうの音も出ない
何とか森からアスカラに生還できたが、未だ刺されたところがムズムズする、完治はしたと思うんだが
「傷は治したが出血した分の血は治ってない、まぁそんなに出血してないだろうけど、万が一に備えて今日は休んどけ」
頼りになる時は頼りになる奴だな
ならない時はいつもゴロゴロしてる癖に
「そういえばここって観光地として有名なんだろ?ちょうどいいし寄ってこうぜ」
「いいですね!アスカラはいつも私の休みの時に訪れてますからね、案内は任せてください!」
そんな、胸を張りながら言う頼りがいのあるクレアと
「ねぇ、ここの人悪魔の巣窟が近いからかデーモンスレイヤーが多いって聞いたんですけど、大丈夫なの?」
と肩をすぼめて、顔を手で覆って不安を抱えるリリス
「多分大丈夫なんじゃね?しっぽや羽は無いんだから、とりあえず案内は任せた」
「任せてください!」
思えばここに来てからゆっくり観光なんてした事がなかったな
今日はゆっくり楽しむとするか!
俺はせっかく来た異世界を楽しむことにした
「ここがこの街名物のスライム競走です!」
俺達はいま、アスカラ国名物の中心部に来ていた
周りは自然を崩さない程度に建てられた、石と木でできた様々なお店と屋台がずらりと並んでいた
「さぁさぁ券売に来た皆さんはここから買えますよー!」
呼び込みが威勢のいい声で呼びかける
「スライムってあのでかくなるやつか?俺あいつトラウマなんだけど」
「大丈夫です、人間に育てられたスライムは襲ってきませんし、このスライムは大きくなりません」
どうやら競技用で使われるスライムは基本的に「ランナースライム」が使われているらしく、人懐っこい性格や可愛らしい見た目から、ペットとしても愛されるようだ
黄色で丸っこい姿でプルプルする様子は、たしかに可愛いが、やはり昨日の出来事を思い出すとゾッとする
そして各スライムにはナンバーが書かれた紙が貼り付けられている
「和也は何に賭けますか?」
やった事ないが、多分競馬みたいなやつだ、賭けたら賭けたぶんの金が倍になって帰ってくるというアレ
「何あのスライム超イケメンだわ!あの子に賭けようかしら!」
そういうとリリスは券売所に向かう
イケメンとか言ってたが全く同じ見た目過ぎて俺には違いがわからん
「あれ?今回は6匹出場ですか?前よりかなり少なくなってますね」
「最近スライムが拉致されて困ってるんだ、最近だと前回王者だった『マケタラゼリー』や『エーカップダイスキ』などが居なくなりましてね……」
と券売所にいる受付が言う
ここでも日本の、変な名前をつける文化があるらしい
「折角だし俺は3に賭けようかな」
俺はそう言って3の書かれたチケットを取り出し、受付に金貨を渡して金額に一万とペンで書いてもらった
「おお『ゼリーオイシイ』に賭けるんですね、センスあるじゃないですか!」
こんなん全部同じだろ多分
「んじゃ自分は2にするか」
そう言ってルナも器用に肉球を使い、首にかけていた小袋から2枚銀貨を受付に渡し、二千と書いてもらう
「『マケンナヨ』に賭けるんですね、にしても最近は猫も賭けるんですねぇ、時代は変わったねー」
反応薄くね?受付の人がそういうが、もっと驚くもんじゃねぇのか?猫が喋って賭けるとか前代未聞だと思うんだが
そんなことを考えていると突然「ウーーー!」とブザーがなった
「お、もうすぐ始まりますね!私はもう6に百万賭けてあるので何としても勝ちたい!」
「へぇー、百万ねぇ……は?!」
こいつ今なんて言った?百万ってお前!?
俺はこいつの言ったことに唖然としていると、スライムのゲートが開かれた!
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