第6話 キャラメルの新技開発とプティングとの手合わせ

私は強くなりたい。おじいちゃんとこの家を守るために。

あの時、確かに私はそう言った。

だからおじいちゃんに修行をつけてもらおうと思っていたのに。

異世界最強トーナメントへ出場しろ?

なにそれ。

意味がわからないわよ。

私は家に時々現れる魔法格闘家の人達を追い払いたいだけなのに。

どうしてこんなトーナメントに参加しないといけないのよ。

興味もやる気も出ないし、当日はどこかへ逃げちゃおうかな。

でもおじいちゃんなら絶対気づくよね……

私はどうすればいいの?

……

でも、ちょっと待って。

私はおじいちゃんから渡された紙をじっくりと見つめて、あることに気づいた。

おじいちゃんのことを狙っている魔法格闘家もこの大会に参加するってことだよね。

つまり私が全員倒して優勝すれば、我が家にこれから訪れるであろう膿を一掃することができるってことね。

よし、やってやろうじゃない。目指せ優勝!

我が家に永遠の平和をもたらすために!

あー……でもその前に攻撃魔法を覚えないといけないんだっけ。

おじいちゃん、教えてくれるかな。

ううん。ひとりでお勉強をして身に着けてみせる!


――と思ったけど、やっぱりお勉強って難しいよぉ。

おじいちゃんの魔法の本は何を書いているのかさっぱりわからなくて意味不明だし。

眼鏡?

あー、眼鏡ね。

よく魔法小学校に通っているときに言われたなあ。

お前は勉強しすぎて眼鏡をかけているのか?って。

それとも、本の読みすぎなんだろうとかって言われてた。

だけど、どっちも不正解。

私は昔から顔立ちのせいか賢いって印象を抱かれることが多くて、そのせいで損ばかりしてきたんだよね。

この眼鏡は小さいころから視力が良くなかったからつけているだけで、勉強のやりすぎとかそういう理由なんかないのに、みんな勝手にいろいろ理由をつけて推測するんだよね。

あれってほんと迷惑。

イメージを勝手につけられる側の苦労も考えろっつーの。

文句をずっと心の中で呟くけれど、やっぱり本は頭の中に入ってこない。

食べたいお菓子や作りたいお菓子なら頭の中に入ってくるのに。

私の魔法って普通とちょっと変わっているんだよね。

普通の魔女って言ったらさ、何やら呪文を詠唱(なんか響きがかっこいい)をして魔法を発動するじゃん。

だけど私はそんなものは必要なくて魔法を発動できる。

もっとも、今のところは金平糖を出したり、砂糖で目を塞いだり、胡麻団子を出したりするくらしかできないけどさ。


「勉強は進んでいるかな」


おじいちゃん!? いつの間にいたの?

女の子の部屋に入るときはノックくらいしなさいっていつも言っているでしょう!


「ノックもして声もかけたけど、君の耳には入っていなかったようだねえ」


……それは、全面的に私が悪い。


「ところで、勉強は進んでいるかな」

「まあまあよ。まあまあ」


まあまあ、一ページも読めてない。

どうにかおじいちゃんをごまかしてから、私は枕にポフッともたれかかった。

やっぱり活字の多い本は苦手。

読書は退屈。

こうなったら本に頼らずに自力で強くなるしかない!

思い立ったら即行動が大切っていうもんね。

まあ、すぐに行動して後悔することもあるかもしれないけど、ウジウジ悩んでいたら時間の無駄だろうし。

というわけで、さっそく新技の開発に取り組んでみよう!

庭に出た私は深呼吸をして、神経を落ち着かせていく。

集中、集中……

余計なことは考えない。

早く練習を終わらせておいしいキャラメルが食べたい。

わかる。でも後回し。今は新技の開発が先。

練習なんか面倒臭いから部屋でゴロゴロしていたい。

わかる。

今はそれも後回し。

頭に浮かんでくる雑念と格闘しながら、集中力をピークに持っていく。

目を閉じて内なる自分と向き合う。何もない真っ暗な世界。

目をつむっているから当然だけど、宇宙空間みたい。

さあ、魔力を開放しよう。

目を思い切り見開いて、魔法の杖を向ける。

相手はおじいちゃん――の形をした等身大の手作り人形。

やっぱり相手がいないと張り合いがないもの。


「ポップコーンクラーッシュ!」


おじいちゃん人形の両端に巨大なポップコーンを展開。

そのまま一気に押しつぶす。

巨大なポップコーンにむにゅっとつぶされたおじいちゃん人形。

技を解くとあちこちから綿が飛び散っていた。

うん。初めてにしてはなかなかの威力かも。


「問題は実戦で通用するかどうかだね」


そうそう。っておじいちゃん!?

また私の隣に。

いつの間にいたの?


「わしの気配に気づかないようでは、トーナメントでも心配だねえ」


おじいちゃんは私の手作り人形の無残な姿を一瞥した。

やだ、もしかして私に変な趣味があると思ってる?勘違いしないでよね。

これは単なる練習なんだから。

おじいちゃんは指を鳴らして人形をあっという間に修復すると、どこかへ人形を転送した。

たぶん、私の部屋だろう。

それから私と間合いを取って言った。


「今度は人形ではなくわしが直接相手になるから、かかっておいで」

「いいの。さっきの技、ちょっぴり自信作なの。後悔しないでよね!」


おじいちゃんは相変わらず後ろで手を組んで構えている。

いつも思っていたけどこの達人風?のポーズが本当に腹立つんだから。

おじいちゃんはもう時代遅れだってことを私の魔法で証明してあげる。

再度、杖を構えておじいちゃんに向けて魔法を放つ。


「ポップコーンクラーッシュ!」


両端に展開されて迫りくるポップコーン。

だけど挟まれる直前におじいちゃんはジャンプ!

ポップコーンのプレスから逃げちゃった。

技の失敗と同時に消滅するポップコーン。

おじいちゃんはゆっくりと降りてきて私に言った。


「人形と本物は違うだろう?」


人形なら動かないで技を受けてくれるけど、本物は動く。

そして私の技は左右はともかく上が無防備だったことに気づかされた。

速度もあまりだし、一瞬は驚くかもしれないけど熟練の相手には効果がない。


「ホッホッホッホ。実戦でその場で思いついた技を繰り出す者もいるけど、わしから言わせれば愚の骨頂だよ。付け焼刃で通用するほど戦闘は甘くないからねえ」


ガーン。

そんな効果音が頭の中で響いた。まるで石にでも殴られた感じ。

通じなくてもその場で改良を加えればいいかって思ってた私の考えはあっさりと砕かれた。

でも、おじいちゃんの言っていることはたぶん正しいと思う。


「それじゃあ、わしはお茶の時間をするけど、君はもう少し技の研鑽に励みなさい」

「はーい……」


力なく返事をして、肩を落とす。

お茶を先にされるのはしゃくだけど、まずは技の改良が最優先だものね。


「ポップコーンクラッシュ!」


まずは速度を上げてみる。

のろのろの動きじゃ絶対に避けられるに決まっているから。

何度も技を発動して、精度と速度を上昇していく。

でも、それだけじゃダメなことは私にもわかる。

だから……


「二個を五個に増やす!」


左右、真上、それから背後と正面。五方向で攻めれば相手は逃げ場所を封じられる。

そして威力も倍になる!


「あー、でも下もあるわよね」


思い出したのは魔人ジーク戦。

あの時、私は彼の炎攻撃を真下に潜って逃げたんだっけ。

自分にできることは対戦相手にもできるって思わないと。

私は服の袖をまくって気合を入れる。


「さあ、もう一回頑張るわよ!」


あの後、どうにか技は何とか形になって練習は終わったけど。

家に入ったらお茶はぬるくなっていたし!

お茶菓子は全部おじいちゃんが食べちゃっていたから、作り直しをしなきゃいけなかった。

大体、孫のためにちょっとくらい残そうっていう配慮はないの?

孫が一生懸命練習をしているんだから、それぐらいのやさしさはあってもいいのに。

こうなったら作ったおやつは全部ひとりで食べちゃうもんね。

そんな気持ちで作り始めたチョコレートケーキ。最初はイライラが高まっていたからケーキに影響して雑な味になるかもって思ったけど。

完成したケーキはふわっふわの生地でチョコレートのコクと香りがマッチして、思いのほか美味しく食べることができた。

それから、ちょっと疲れたからお昼寝でもしようかなと思って眠り始めたけど。

やっぱり疲れていたのかな。

気づいたら翌日の朝七時になってた。

お夕飯も食べずにずっと爆睡なんて、女の子としてはちょっと恥ずかしいかも。

でも、これも貴重な経験と考えれば、悪くないかな。

なんて思いなおして一階に降りたら。

おじいちゃんと知らない女の人がいた。

お客さんかな?

少なくとも、私は知らない人。

長い睫毛に銀色の瞳、年齢は高校生くらいかな。

黒髪のボブカットに頭頂部からぴょこんと飛び出した黒い狐耳。

綺麗な顔立ちで首には大きくて黄色い鈴の付いたチョーカーと白の巫女さん?っぽい

和装を着ている。

女の人は飲んでいたティーカップを机に置いてにっこりと笑った後に言った。


「本日からお世話になります。アンと申します」


え?お世話になるってどういうこと!?

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