君は太陽

 次の日、昨日の不思議な気持ちを抱えながら学校へと向かった。自然と身体が学校へと向かっており、いつもより結構早く教室についた。


 教室には一番乗りだった。東から上ってきている太陽が眩しい。朝の教室は少しホコリが舞っていて、太陽の光が反射してきらきらと光っている。電気を付ける前のこの光景は朝早く来た人しか見ることが出来ないものだ。


 僕は久しぶりにしっかりと本を読んでみることにした。今まで心ここに在らずといった感じで居たが、君と出逢ってから何か自分を変えれたような気がした。


 そうして、本を読もうとすると、君がやってきた。


「あっ秋花くん!おはよう! 」


「山中さん、おはよう」


 相変わらず朝から元気いっぱい、ハイテンションで過ごしている。よく疲れないなぁと思いながらも、そんな君が今日も輝いて見えた。


「ねえ、ねえ、今日の私どこか違うんだけどどこだと思う? 」


 いきなりそんな事を聞かれた。これはもはや地雷としか思えない会話の流れだ。でも、君は僕をまたきらきらした目で見つめてくる。


「えっと・・・・・・」


 僕は急いで昨日の夜の君と今の君を比べた。服装は・・・・・・制服だから同じか。髪型・・・・・・ん?


「髪型? 」


「正解! 今日は結んでみたんだ〜 どう? 」


 確かにいつもは髪を下ろしているけど・・・・・・ってこれじゃあ毎日見ているって思われないか? そう心配したのもつかの間、


「どう? 」


 君はずんっと近づいてきてまた目を輝かせながら聞いてきた。もう、目で何を言ってほしいのかを訴えてきている・・・・・・


「似合っ・・・・・・てるよ」


「そうでしょそうでしょ!」


 とりあえず行った言葉が正解だったことに安堵する。そうして君は嬉しそうにとたとたと跳ね回っている(こういう表現が適切なのかどうかはわからないけど、とにかく小動物のように跳ね回っていた。)


 すると教室に女子バスケ部で、いつも君と仲良くしている子が入ってきた。


「もう、愛菜騒ぎすぎ! うるさいよ!」


 笑いながら怒っているような口調で乱入してきた。


「もう、秋花くん困ってるでしょ」


「え〜〜だって〜〜。別に困ってないでしょ? 」


 だからその目を止めてほしい。いや、嫌な訳では無いが、断りづらくなってしまう。といっても、特に困っているわけでもなかったので、


「う・・・・・・うん。大丈夫だよ? 」


 少し疑問形になりながらもそう答えた。


「ね! ほら、大丈夫だって。ねえ、碧音もこの髪型どう思う? 」


 碧音というのはその女バスの子の名前だ。


「もう、愛菜ったら」


 結構な茶番が繰り広げられている。どんどん教室に人が集まってきて、ワイワイガヤガヤ賑やかになってくる。陽キャ系の男子も君の話に巻き込まれて、クラス中が朝から明るくなる。やっぱりすごいな。君は。


◇◆◇


 その日はなんだか本当に学校にいる感覚がしっかりとあった。いつものロボットのような・・・・・・ただの入れ物のような感覚でなく、しっかりとそこに自分がいる感覚がした。


 最近の冷え切っていた心に太陽の光があたったような気分がしていた。


 授業も、部活も・・・・・・変かもしれないけど、少し気持ち悪いかもしれないけど、事あるごとに目が君を追っていた。


 いつ見ても君は笑っていた。太陽みたいに笑っていた。でも、そんな君を見るたびにドキドキする不思議な気持ちとは裏腹になんだか自分の心がもっと暗くなるような気がした。


 光には影が必ずつきまとう。こんな僕に君は振り向いてくれるのか・・・・・・そんなふうに心配になってきていた。


 そして部活が終わった放課後。今日下校は同じじゃなかったので、一人で暗い夜道をいつも通り歩いていた。


 一人で歩く道はなぜかいつもよりも寂しく感じられた。今まではこんな気持ちにならなかったのに。いつも一人で淡々と歩いていたのに。いつも何も感じなかったのに。


 足が重くなる。家への道のりが遠く感じる。今までは一瞬のうちに過ぎていたのになんで急にこんなになるんだろうか。


 部活のバスケのせいもあってか、いつもより思い足を一歩一歩踏み出しながらやっとのことで家に着いた。


「おかえり」


「ただいま」


 家についた途端に体から疲れが一気に出てきて、手洗いうがいをするなり夕飯の時間まで寝てしまった。


 夢の中で君の笑顔を想像する。本当にきれいで輝いていて・・・・・・


「なにを考えてるんだ。考えたって仕方ない。今を生きるだけさ」


 きりがないのでそんなふうに自分に言い聞かせて考えるのをやめた。


 次の日からもそんな日が続いた。それでも少しづつ学校生活には色がついてきた。白黒のなんにも面白くないただ過ごすだけだった日常は消えていった。


 そしていつの間にか中体連まで残り一週間と迫っていた。先輩たちは基本的には中体連で引退してしまうので、先輩とバスケができる時間もあと少しになっていた。


「あと一週間か〜 」


「そうだね」


 話しかけてきたのはバスケ部の中で一番仲が良い高峰亮吾だ。亮吾は数すくな・・・・・・くない友達の一人だ。クラスも同じなので気軽に話せる友達だ。


「もう中体連か〜 早いね、もう一年経ったんだね」


「俺達も頑張ろう! 」


 そうして僕らは中体連を迎えた。

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