君に僕を見つけてもらったとき

 遠くから君を見守る。そんな日々が続き、ちょっとの生きがい・・・・・・といって良いのかわからない・・・・・・を見つけたけれど、まだロボットのように淡々と日々をこなしていく毎日が続いた。

 

 そして、部活中にも変化があった。僕と君は男女という区分は違うけれど、バスケ部という、同じ競技の部活に入っていたので、練習の時隣のコートになることが多かった。それまではあまり気にしていなかった。でもあの日以来、隣のコートに目をやることが多くなったような気がする。


 そして、いつの間にか六月が終わりに近づこうとしていた。どんどん暑くなっていく。そして、六月の終わりといえば、そう、中体連が近づいていた。


 中体連。つまり、二年生の僕らにとっては三年生の先輩が部活を引退する時期である。そうして、先輩の引退が近づいたことで部活の熱量はどんどん大きくなっていった。僕も自然と一生懸命に部活に取り組むようになった。


 そして、そんなある日の帰り道。たまたま君と同じ時間に部活が終わったため一緒に帰ることになった。一緒に誰かと帰るなんてあまりなかった。それに、二人きりという状況に少し緊張してきた。なにか話さなきゃいけないかな? と思いそわそわしていると、君から話しかけてくれた。


「秋花くん」


「なに? 」


「もう少しで先輩たち引退だね」


「そうだね」


 単調な返答しか出来ていないような気がした。すると君は急に立ち止まった。なにをしだすのかと思いきや、


「ここみん先輩が引退しちゃうよ〜 どうしよう〜」


 と、いきなり目を潤わせながら言ってきた。バッチリと目があってしまった。一瞬、きらきらと光っている君の目に見とれてた。君の目を光らせているのは月明かりなのか電灯なのか、もっと違うなにかなのか、僕は知る由もなかった。


 少しだけ気まずい沈黙が流れてしまい、なんと答えていいのかわからなかったので、ただ、


「どうしようって言われても・・・・・・」


 お世辞にも返事になっているとは言えない返事をし、そのまま歩き続けた。ここみん先輩というのは多分心望先輩のことなのだろうが、全く面識もない名前だけしか知らない人なのだからしょうがないと思う。


「ねえ、ちょっと〜 おいて行かないでよ」


 君は困って歩くことしか出来ない僕の後をひょこひょこと付いてきた。さっきまでの泣き顔をどこへやったのか、振り向いて見た君の顔はすごくにこやかだった。


「ねえ、ねえ、秋花くんが一番好きな先輩って誰? 」


 いきなりそんなことを聞いてきた。まあ確かに同じクラスで普通に仲良く過ごしてる間柄だけど、流石にいきなり過ぎないか? 


 君は短めの茶色の髪をふわっと風になびかせてまっすぐに僕を見ていた。


「う〜ん。倉元先輩かな? 」


「なんで疑問形なのよ」


 倉元先輩はクセの強い先輩の中で一番信頼? できる先輩だ。だから好きっていう感覚とはちょっと違うから語尾が上がってしまうのはしょうがない。


「へぇ〜 倉元先輩かぁ、たしかにかっこいいもんねぇ」


 すごく興味なさそうな、棒読みの反応が返ってきた。いや、聞いてきたの君だろ! と突っ込むのはやめておいた。

 

 いつの間にか分かれ道まで来ていた。信号機が無慈悲にも二人きりの時間をおわらせに来た。


「じゃあ、私こっちだから。ばいばい」


「うん。ばいばい。また明日」


 そう言って手を振り合ってそれぞれの帰路へと付いた。


◇◆◇


 家につくまではなんだかふわふわとしたような不思議な気分だった。初めて、二人きりでいたのであまり実感が湧いていなかった。まだあの日からのこの不思議な胸の鼓動は治まらない。

 

「ただいま」


 家に帰るとカレーの匂いが漂ってきた。いつもと変わらないその匂いは僕を現実の世界へと引き戻した。


 あったかいカレーを食べて、お風呂の湯船にゆっくりと浸かってさっきの事を思い出してみた。


 なんだかふわふわしていてよく覚えていなかったけど、あのときの涙が浮かんだ目はとても鮮明に覚えている。


 僕よりも少し低めの背で、下から少し見上げるような感じだった君。目に浮かぶ涙は月明かり・・・・・・ 電灯の光が反射して本当に綺麗だった。本当によく泣けるな。本当によく笑えるな。


 あの瞬間。僕は君の虜になってしまったんだ。そして薄々気づいていたけど、この気持ちの正体は恋なんじゃないかと思った。


 今まで恋なんてしたことがなかったし、誰かを恋愛感情的に好きになったこともない。だから半信半疑だけどこの鼓動の速さは絶対にそうだと思った。


 まさか自分が誰かの事が好きになるなんて思いもしなかった。でも、恋じゃなかったら何なのだろうか。今まで読んできたたくさんの小説の中に、もちろんそういう恋愛系の物語もあった。でも、まさか自分がそんな状況に置かれているなんて思いもしなかった。


 この気持ちは受け入れるしかないのかもしれない。いつかは君にこの気持ちを伝えないといけないのかもしれない。でも、自分に本当にそんな事ができるのか今から不安になってきた。自分を受け入れてくれるのか不安になったきた。


 まあ良いや、未来のことは未来の自分に託そうか。そう思って今日は早めに寝ることにした。

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