第9話[仕込んだ思惑と知らされない男]
1ヶ月後、
初めは貴族の遊びと
「シルキー、ちょっといいか?」
ドワーフのガンドールがシルキーに話しかける
「どうかしましたか?」
「ひと月···
「どうかしたんですか?」
「実は知り合いの
「砥石なら交易ギルドじゃダメなんですか?」
「
「シラフで熱くなってる所すみませんが、とにかく凄いんでしょうねぇ」
「
「それは凄い!今すぐ行っても差し支え無いです!」
まるで手首にプラズマダッシュモーターを仕込んだかの様な手のひら返しっぷりである
「でもよぉ、それだけ貴重なモンだから期待すんなよ?それと、今日受けた仕事は終わらせてあるから仕上げは任せた」
「分かりました、ルークには私から言っておきます」
「すまねえな。所で
「ルークなら
「···そっか、来月には結婚式か」
その頃ルークとリズは執事のジェイムズの口利きの仕立て屋でリズの母親のお下がりのウェディングドレスをリメイクしてもらっており、今日はソレを着て屋敷の玄関に飾る肖像画を描いてもらっている···ある意味過酷な一日であるのだが
「
「ボクも初めて聞いたよ、凄く興味あるね」
「へえ、裏路地の大賢者様も知らぬ魔法があったんですねぇ。無理も無いでしょうね、つい最近出来たばっかりの魔法らしいですよ」
要はダゲレオタイプの銀板写真である。銀メッキ加工した銅板に被写体を写し、水銀蒸気にあてて塩水で定着させガラスで保護させる。化学反応の技術だがこの世界では魔法だと思われている
「ほー、こうなるのか。リズちゃんがもう一人居るよ」
「でも肖像画にしては小さすぎません?」
「コレを見ながらカンバスに描くンです。毎日数時間同じ服で同じポーズなんて嫌でしょ?」
「あー、確かに。ボクはともかくリズちゃんは忙しいからねぇ」
「あの凛とした騎士団長様が服一つでこうも変わるとはね」
「分かる、自慢の嫁だもの」
普段、容姿で褒められ慣れてないので顔を真っ赤にして
「も···もうこの格好の必要はございませんよね?時間に余裕が出来ましたからこれから着替えて登城します」
「じゃあボクも出かけようかな?」
同席して暇を持て余して本を読んでいた
「失礼ですがどちらまで?」
ルークは軽くストレッチしながら
「病院、最近なんかこう···関節がモヤモヤして気持ち悪いンだよね。もしかしたら事故の後遺症かもしれないからプロに診てもらうよ」
「同行します」
「仕事とはいえすみません、ジェイムズさんも用事があるのに」
「いえ、
ルークの足は帝国病院とは違う方向に向かっている
「旦那様、病院はそちらでは···」
「忠告痛み入ります。でも、こっちで良いンです」
「でもそちらは···」
向かった先は賢聖アルテアの
「どちら様でしょうか?」
「
「かしこまりました、こちらでお待ちください」
ルークとジェイムズは中庭の東屋に通される。普通の貴族でもなかなか面会出来ないと社交界で噂の賢聖アルテア相手にジェイムズはアポ無しで会えるとは思って無かった
「珍しいですね、先生から来るなんて」
「カミラちゃんか、今日は
「うん、今日はどうしたんですか?」
「ちょっと身体に違和感があってね、たぶん普通の医者よりアルテア様の方が分かってるンじゃないかと思って。あ、こちらは執事のジェイムズさん。こちらはミネルバ騎士団のカミラ=リリララさん」
その時屋敷の三階から声がする
「ルーク!ヌシなら何時でも歓迎じゃ。さっさと上がって来い」
「旦那様、まさかあの少女が?」
「魔法のトラブルであの姿のままだけど我々より歳上です、後は見た目と年齢の話は禁句で」
「かしこまりました」
ルーク達がアルテアの私室に向かうとそこには
「あれから具合はどうだい?」
「へドリアラ様、その節はありがとうございました。具合はよろしくありません」
ルークの素直な物言いにへドリアラはゲラゲラ笑う
「良いねぇ良いねぇ、
「何て言うか関節がモヤモヤしてくすぐったいと言うかモゾモゾすると言うか」
「あー、そりゃ
「副作用?」
ルークはアルテアを見るがアルテアはルークの視線を外す
「あの時のお前さんの身体はズタボロで手の施し様が無くての。普通に
へドリアラは同席してるカミラに向かってへドリアラのカバンを持って来させる
「何せ急な事じゃったからの。ほれ、左手を出せ」
カバンから針と白い布と小さなガラス板と透明な液体の入った瓶を取り出す、中身は安く買った出来の悪いワインから湯煎して蒸留した
「ちょいとチクっとするぞい」
針の先とルークの左手の小指の腹をアルコールで清拭してから刺して、ガラス板に数滴血を垂らす
「ほれ、
「血を取ってどうするんですか?」
「血は雄弁でな、身体の···特に
「仕える方々の健康管理は出来ても自らのはなかなか出来ませんからね、お願いいたします」
「ルーク、お前のは身体が馴染んで無いのと食生活が変わった事による鉄分不足じゃな。緑とか色の濃い野菜を意識して摂れ」
「あー、確かに濃い料理が多かった気がします」
「
「エシャロットの皮ですか?あの棄てる所の?」
「今の所。青い魚、エシャロット、ヨーグルトが今の所効き目があった」
「なるほど!肝に銘じて置きます」
「ルーク、他に違和感は無いか?」
「そうですねぇ···あ、物理的にも魔力的にも意識しないと力加減が出来ないですね。コレも馴染んで無い証左でしょうか?」
「そういう事じゃな」
それからへドリアラのアドバイスを聞いてカミラを護衛に付かせてルーク達を帰らせた
「行ったか?アルテア」
「行ったな。
「それは
「結果的に上手く
「しばらくは
「ワシらの結果が[八大悪魔]と[五大天使]を宿す[改造人間]か···本人も周囲も知らぬとはいえワシも敵にしとうないな」
「同感、後は
「···っくしょい!······冷やしたかな?」
「秋ですからな、戻りましたらホットワインでも入れましょう」
「それか
「かも知れないね、カミラちゃんもウチで一息入れてから戻ると良い。ジェイムズさん、戻ったらカミラちゃんに手土産の準備もお願いします」
「かしこまりました、料理長特製のラスクはいかがでしょう?きっと気に入りますよ」
「コレはある意味行くべきだな」
「お前もそう思うか、下手に
「
「分かった」
(悪いな、ルーク···もう
一方、帝国の東都と海を隔てた
「武者修行時代の友の
「先の遺跡の件での招集もございました。これを理由に内情を探る好機かと」
「
「覚えておいででしたか」
「幼き余を悪鬼羅刹から庇った彼の背中···忘れるものか」
日向城主は彦十郎に一振りの脇差を渡す
「あの時はルーク殿が居らねば、余はここで日向守と茶を喫しておらん。名目は余の使いで構わん、
「はっ」
「じゃが···万が一があれば、責任は全て余が取るゆえ日向守の裁量に任せる」
なぜこうも警戒されて居るのか?それも無理もない話でベトナ山の手に余りすぎる遺跡が原因なのだ。ファルザードからは[一騎当万]セルジュ=ウッドランド、そして一地方領主とは言え倭からは帝国を知る
舞台は
「クリストフ先生、一手ご指南いただけますか?」
リズがレオンに剣の修行を乞うている
「お手柔らかに頼むよ」
「胸をお借りします!」
互いに木剣を正眼に構え仕掛けと受けの型をリズからレオン、レオンからリズへと交互に
上段振り下ろし、左右横薙ぎ、鍔迫り
四つの型を交互にゆっくりと初め、段々とスピードを上げ六度目の鍔迫り合いの後···
「参ります!」
リズの高速で重い変幻自在の打ち込みをレオンは返して避けて弾く
「流石は
「まだ
「分かるのか?
アリスには何となくリズが力を溜めていると
だが、それはレオンも察知している。リズがレオンの剣道場から
一方リズは
「参りました。私もまだまだ未熟ですね」
「そんな事無い、そこで剣を引く判断が出来るのはそれなりに実力がついた証拠だよ」
リズは正直、騎士団の総隊長としての責任と重圧にどう向き合っていけば良いのか答えが見つかっていない事に焦っている
「ルークさんはどうしてる?」
「ルーク先生は最近自分のコントロールが効かないみたいです。何て言いますか、身体に心が追いつかない様でイライラしてます」
「まぁ、周囲に当たり散らさないだけマシか。リズちゃんには悪いけどたまにはルークさんと二人で飲みに行っても良いかな?」
「その時はお願いいたします、私だと心配させないように振る舞うかも知れませんので。男同士、女同士でないと分からない事や言いたい事もあるでしょうし」
(立派だなぁ···)
「何度「女のクセに」と睨まれた事か、まぁ実力でねじ伏せましたけどね」
(···前言撤回)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます